iPS細胞由来の細胞による腫瘍化の問題を解決するために分化抵抗性を示す細胞に着目し、その分子基盤の解明からiPS細胞とES細胞の差異を明らかにすることを目的とした。iPS細胞とES細胞の最も大きな違いは外来因子を導入したことである。そのためiPS細胞とES細胞の差異を生み出す原因の有力な手掛かりとなることが考えられる。そこで外来因子の挙動を生細胞においてシングルセルレベルでモニターするシステムを構築した。しかしながら外来因子の再活性化と分化抵抗性に関しては当初の予想に反して直接の関係がなさそうであることが明らかになった。一方で構築したシステムを用いて、iPS細胞誘導効率における4因子の最適比を明らかにした。さらに導入因子の量比がiPS細胞誘導効率を変化させる分子メカニズムについてマイクロアレイによる遺伝子解析を行った。その結果、細胞外環境に対する反応性が異なることが示唆された。特にGPCRのパスウェイが変動していることからGPCRファミリーの一つであるケモカインに着目し、iPS細胞の樹立効果を上げる因子としてCCL2の同定に成功した。さらに転写因子とエピジェネティックモディファイヤーに着目してc-Mycを除く3因子の導入の際にのみではあるが、Whsc1l1 variant1がiPS細胞の樹立効率を上昇させることを明らかにした。このようにTagベクターによる導入因子の可視化に成功したことから、新たな因子の同定にも成功するという成果を上げることができた。腫瘍化に関してはc-MycとL-Mycに着目し始原生殖細胞の脱分化系を用いてc-MycとL-Mycの違いを生み出す分子の候補遺伝子を同定した。
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