本研究は、無限次元の状態空間をもつ量子系に基づいた、従来の量子計算機とは異なる仕組みの量子力学的計算モデルを提案し、その計算能力や計算効率について、旧来の計算モデルと比較しながら計算理論的に考察することを主題としている。研究期間全体を通じて、様々な量子計算モデルに関する先行研究について国内外の研究者と情報交換し、新しい量子計算モデルの実現化に向けての問題点を洗い出し、新たなモデルの構築に向けての有効な方策について検討した。 昨年度、代表者の田中と分担者の山崎武は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の高橋康博博士との共同研究によって、以下のような結果を得、本年度においてはそれを論文にまとめて国際会議および専門誌に発表した。深さ固定の多項式サイズ量子回路において、一連の単一キュービット測定を許せば,古典計算による模倣は一般に多項式時間では困難だが,唯一の単一キュービット測定では古典計算による模倣も多項式時間でできることが知られている。しかし、後者に非有界なファンアウト・ゲートを加えた場合の古典模倣の困難さについては知られていない。そこで,我々はP=PPでないといった自然な仮定の下で、このような場合に古典模倣が多項式時間でできない量子回路があることを具体的に示した. また,分担者の只木は、ニュージーランドのオークランド大学のC. S. Caludeやウィーン工科大学のSvozilらと協力して,量子測定の結果がbi-immuneであることを、物理的実在に関する仮定から証明し、量子測定の困難さと不完全性定理との関係について新たな側面を明らかにした。以上、新しい量子力学的計算モデルについての研究は成功裏に完了した。
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