研究課題/領域番号 |
23650004
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小柴 健史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60400800)
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キーワード | 暗号理論 / 量子暗号 / ブラインド計算 / 観測ベース量子計算 |
研究概要 |
万能ブラインド計算とは2者(アリスとボブ)の間の計算プロトコルであり,アリスが持つ入力と実行したいアルゴリズムを,自身が実行する替わりに代理としてボブに実行させる方式で,そのときに,アリスが持つアルゴリズムやその入出力をボブに知られることがないという性質を持つ.2009年にBroadbentらは,観測ベース量子計算モデルを用いて,無条件に安全な万能ブラインド計算が実現できることを示している.量子計算において標準的に利用されている回路ベース量子計算と観測ベース量子計算の中間的な計算モデルとして補助キュービット駆動型モデルがAndersらによって提案されている.計算を実際に行うシステムレジスタと観測を行うレジスタが物理的に分離されているため物理的な実現が容易であると考えられている計算モデルである.各レジスタの役割が明確に分離されている制約のため,回路ベース量子計算あるいは観測ベース量子計算を単純に発展させたものではないため,その点を考慮してAndersらは万能性を持たせるための十分条件を提示している.本研究課題において,補助キュービット駆動型モデルにおいて,万能性に加えてブラインド化が必要となる基本オペレータの十分条件を導出することに成功した.具体的には,まず,Andersらの万能性条件とブラインド条件を同時に満たすことは不可能であることを示し,さらに,Andersらの万能性条件を緩和しつつも万能性を失わず,かつ,ブラインド性を満たすための条件を与え,このような条件を満たす方法を幾つか提案した.また,ここで与えたブラインド化条件は,補助キュービット駆動型に限定した条件ではなく,観測ベース量子計算にも適用され,観測ベース量子計算におけるブラインド計算の効率化にも貢献している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から,観測ベース量子計算を利用したブラインド計算手法の研究をスタートさせたが,物理的な実現の可能性が最も高いと考えられている補助キュービット駆動型量子計算においてもブラインド化が可能であることを示した.最も現実性の高い計算モデルにおいてもブラインド化が可能であるを示すことは,暗号理論的にも十分に意義があることと考えられる.特に,十分条件を与えるという汎用的な性質を導出したことにより,他の計算モデルに対して波及が期待できる.古典暗号理論においてもブラインド化に対応する概念があり,量子ブラインド計算のおける考え方を古典暗号へ適用することも期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
古典暗号理論において,ブラインド計算は応用対象の一つであるが,量子ブラインド計算においては,基礎部品の一つとして考えることもでき,量子ブラインド計算をもとにした暗号プロトコルの構築や限界究明などへも期待がもてる.特に,ブラインド化手法は,古典暗号理論におけるYaoのGarbled回路の考え方と親和性があり,古典暗号理論の知見を量子ブラインド計算へ移植することも検討する.また,本研究課題の研究代表者が関係する科研費プロジェクト「量子プロトコル理論の深化」および「マルチユーザ型量子ネットワーク」のメンバーと意見交換することにより助言を得ながら進めて行くことも検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
量子ブラインド計算を他の暗号プロトコルへ適用すること,あるいは,古典暗号理論との関連性などの検討は新しく検討する課題であり,それらの研究成果は国際会議や国内ワークショップなどで発表する予定である.そのための出張旅費や学会参加費を必要とする.また,研究推敲上必要な書籍や国際会議の会議録などの購入を予定している.
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