研究課題/領域番号 |
23650005
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
武井 由智 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (90313337)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 調和解析 / フーリエ解析 / 表現論 / アルゴリズム / サンプリング / 群論 / 機械学習 / フィルタ |
研究概要 |
非可換群上の隠れ手順ないし未知関数の効率的な学習を、調和解析(フーリエ解析)をツールとして実現するという道のりの最初の目標として、最も構造が簡単である非可換群の一種である二面体群を時間域とする未知信号に対してその主要フーリエ係数推定値を少ないサンプルから確率的に算出する「疎フーリエ表現アルゴリズム」の実現を選び、そのために必要な手続きについて研究してきている。既存の非可換調和解析のアルゴリズムの研究(例えば高速フーリエ変換アルゴリズム)は信号全点のサンプル値を得られることを前提としている一方で、既存の可換加群上の疎フーリエ表現アルゴリズムでは時間域における少ない個数のサンプルから演算する「フィルタ処理」を行い、主要周波数と対応フーリエ係数推定値を導出している。そこで発表[二面体群上の周波数の二分探索について]および[二面体群上のフィルタ処理について]においては、二面体群における信号の周波数特性<これは可換加群の場合と異なり2次正方行列に値をとる>が、時間域処理によってどのように変化させられるかの考察を行い、実際に既存の可換加群上でよく知られた「低域通過フィルタ」および「帯域通過フィルタ」の二面体群での類似物の一構成法を与えている。より具体的には、対称フィルタ係数の場合において、通常の可換加群上の場合のフィルタの構成が二面体群上の場合に自然に延長されることを示している。これは、疎フーリエ表現アルゴリズムの根本処理である「周波数領域上での主要周波数の二分探索」の実現に基本的な道具を与えたということになる。この結果は、理論的解析および研究補助者の支援のもとでのパソコン上での数値解析によって導出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度は何らかの非可換群上で,少い例題によるフーリエ係数学習は可能か?その手法は?という問題に基本的な目途をつけること目標としていた。研究計画のうちの第一項目:"1. 肯定側アプローチ:易しい非可換群(二面体群)への既存アルゴリズム拡張の試み最も可換群に似た非可換群として二面体群を考え、既存の可換群に対する疎フーリエ表現アルゴリズムの動作正当性についての証明を詳細に解析し,証明の段階段階における必要条件を緩め,定義を抽象化し,より見通しの良い正当性証明を作る.これにより,非可換牲の及ぼす影響を見極め,二面体群に対応できる条件を求め,それを充足するべく試みる"については「研究実績の概要」で述べたように「フィルタ処理」という根本処理について一定の目途をつけた。しかしながら、「主要周波数の特定のための周波数領域2分探索」の実現のためには、フィルタ処理後の信号の「エネルギー」をサンプリングにより推定する手法の導出がなお必要である。現在のところこの手法について、数値実験的には利用可能だと予想されるものを得ているが、正当性の証明が確立されていない。この確立をまず行う必要がある。また、その手法は二面体群の特殊性にかなり依存しているため、今後、二面体群で得た知見を他の非可換群に延長していくには今少し見通しのよい方法を模索すべきである。一方、平成24年の1月に京都で行われたSYMPOSIUM ON DISCRETE ALGORITHMS 国際会議(SODA 2012)で、可換加群上の疎フーリエ表現に対して従来と全く違うアプローチが発表された。従って、非可換群上の疎フーリエ表現の実現を目指すにあたっては、この動きにも注意を払いつつアプローチを再考する必要が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べた通り、最初の課題である最も易しい非可換群である二面体群上の疎フーリエ表現アルゴリズムの構成については、フィルタ処理の実現により肯定的な目途が立っているが、まだ未完である。具体的には、フィルタ後の信号のエネルギーの推定手法が未成である。そこで、まずこの部分を理論的・実装的に確立することを目指す。その上で、最近に出てきた可換加群上の新アプローチを参照しつつ、前述の手法の二面体群の特殊事情に依存している部分をできるだけ一般的なものにすることを試みる。例えば、近年に現れた各種の「データストリームに対するハッシュ法」、あるいは「Max-Plus 代数」の直接的ないしは間接的な応用を検討する。これらによって、二面体群よりも非可換性の強いなんらかの群(例えば3次元回転群)への拡張を試みる。「隠れ手順の抽出」を一般的に行うには、n次対称群のような非常に非可換性の強い群上の信号の少数個のサンプルから信号の特徴を抽出する必要がある。これを肯定的または否定的に解決することが本来の研究目標であるが、前述の通り、まだ易しい群での決着を見ていないため、まずはその決着を優先することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
「フィルタ後信号のエネルギー推定手法」の確立のため、また、「データストリームに対するハッシュ法の応用」の検討のため、購入済みパソコンを利用して、研究補助者を雇用して数値実験を行う。ハッシュ法、非可換調和解析、Max-Plus代数に関する文献調査のため書籍を購入する。成果発表のため、旅費、学会参加費および論文投稿料を使用する。
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