無線モバイル機器の屋内測位を目的に、距離計測のための信号遅延を計測する新しい手法を研究した。従来手法は受信信号波形と理想波形との相関計算により、相関ピークを検出し、信号遅延を得るものであった。しかしそれでは測定される距離の確度は使用する信号波形の周波数帯域幅で決まってしまい、典型例として帯域幅30MHzの無線を使用すると約10mが限界となる。測位の精度も10m程度しかとれず、これが屋内でモバイル機器の位置決定を行う際の大きな難点となっていた。 申請者らは測定の相関計算をほどこす際、統計処理を加味することで、従来の測定精度の理論限界を打破する着想を得、デジタル信号処理の観点からそれを試験した。信号は線形波動ならどのようなものでも共通な性質をもつため、無線に加え、超音波、高周波変調したレーザー波などでも適宜試験した。 最終年度において、超音波を使用した確率的情報処理、およびレーザー変調光を用いた測位技術において、統計的手法の利点を生かす信号処理方式を見つけだし、試験ののち数件の成果を発表することができた。 信号検出に使用するフィルタとして、確率的なウィーナーフィルタは既知のものであったが、これを再帰的に適用することで大きな信号品質の改善を得られることを見つけだし、報告した。また平面画像のパターンマッチの手法として知られていた位相限定フィルタを信号パターンマッチに適用すると、従来にないダイナミックレンジをもつ信号処理が可能なことを見出し、国際会議で発表した。レーザー光においては高速信号を長時間観測して統計処理を行うと、従来の常識を超えた精度の測位の可能であることを報告した。これらはすべて本研究のテーマである統計的無線測位の基礎的方法論であり、この成果を屋内測位の確認研究に発展させる予定である。
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