研究概要 |
映画での共感覚解析:もっとも共感覚的と言われるディズニー映画「ファンタジア」のビジュアルを解析したところ,共感覚色(共感覚者へのテストを統計処理し得られた、クロスモーダルに音楽の各調に対応する色彩マッピング)が音楽の調に合わせて特定の場所で使われていることを回帰検定により確認した.音楽の転調に対し,先行して共感覚色を使用するなど,複雑なクロスフェーディング技術を用いていることも判明した.アニメ「千と千尋の神隠し」をビジュアル解析したところ,色彩と曲で,クロスモーダルに同主調の転調関係(曲「あの夏へ」はイ短調⇔色彩の桃色(イ長調))で色彩を音楽に合わせて決定していた.調性格と呼ばれる音楽理論では,楽曲のストーリ性・イメージは転調により決まる. 「千と千尋」では,挿入曲は時間が短く,「ファンタジア」のように転調しきれない,そのため,クロスモーダルに“音楽―色彩”の同主調関係で“転調”関係を作っていることが判明.イ長調からイ短調への転調は,音楽理論で「追憶・ノスタルジー」を表し,主人公千尋と白龍の邂逅・過去の関係を強く示唆している.「千と千尋」では高度な感性により冒頭から本来のストーリ性をクロスモーダルに印象づけ,ビジュアルにストーリの導入に成功している. 脳計測による共感覚のクロスモーダル・メカニズム解明:これまでの共感覚研究で,情動・色彩に対する共感覚を脳科学的計測した例は世界的にも未だ報告されていない.申請者らはこの共感覚保持者に色彩・人名刺激を提示し紡錘状回内の色知覚に関わるV4/V8付近で有意な活動を捉えることに成功し,さらにこの活動に同期して,情動を制御する前頭前皮質・背外側部の活動が有意に観測されるという結果が得られており,これらは世界で初めて計測された結果で,共感覚クロスモーダル・メカニズム解明にとって大きな成果である.
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