近年、数値計算シミュレーションのみならず、様々なセンサーからの情報や、ネット上の情報の中から関連性を見つけ出すために多変量データの可視化技術は重要性を増している。データの可視化にあたり、古典的に用いらてきた表現技法には、色、形、等値線、矢印、模様、それらの組み合わせ、擬似立体投影があるが、本研究ではヒトの視覚特性を利用して効果的な視覚刺激を生成することで新たな多変量データの可視化法を構築するための基礎研究として、影に注目した。影は我々が常に経験している現象であり、影の影響を除去して物体の色を知覚することは無意識化において常に行われている。そのため他の表現方法と組み合わせることで多変量データを理解する表現が可能であると予想されたからである。
研究期間の前半では、日常の多くの影は点光源ではなく面光源により作られることから、半影を伴っていることを考慮し、半影を高速に表現するためのコンピュータグラフィクス技法、Screen Space Anisotropic Blurred SoftShadows (SSABSS) を開発し、発表した。この手法は描画対象物体の数の増加に対して速度低下の生じにくい手法でありながら、光源位置、投影対象の制約が少なく視覚的に光学的に正しい影と判別することが難しい影を生成することが可能である。
研究期間の後半では、色と影による多変量データ可視化を想定し、PCのモニタ上で指定された色票と同じ色標を探す心理物理実験の手法を用いて、影の中の色の明るい条件下での色の知覚のしやすい条件を調べた。実験より、背景色の輝度を変えることにより影を用いた表現での色知覚の精度に優位な差が生じることが明らかとなった。これは影を可視化表現に取り入れる際に役立つ知見である。
|