人のコミュニケーションでは,意味的な情報と同時に情動・感情が伝えられる。本研究では,身体に表出される情動情報を,できるだけ直接的に他者に伝え情動を喚起させるシステムを複数の感覚モダリティを用いて実現し,二人が双方向に相手の情動を体験し誘導するシステムを開発した。そして,情動情報の提示を身体的に物理量として操作し,感じられる情動を心理物理学的手法によって計測し,客観的評価を行うことを目的とした。今年度は特に触覚提示システムの開発と評価,双方向性の情動誘導システムの評価を行った。 (1) 身体性情動アクション(触覚提示)システムの開発:最大6つの小型振動モータを1ms精度で制御して,触覚刺激を与えるシステムを開発した。表情を生成する筋肉部位とその運動を元に設置部位と強度を調整し,予備実験により最適化し,4-5つの振動モータを独立に制御し,触覚により情動を誘導するシステムとした。 (2) 開発した触覚提示システムを用いて,触覚提示(笑顔,怒り,提示なし)が他者に対する好意度に及ぼす効果を心理実験により計測した。その結果,中程度の魅力を持つ他者に対してのみ触覚刺激の効果が見られ,特に怒り刺激の提示によって他者への好意度が減少した。(3) 双方向性情動認知の心理実験:研究期間に作成したシステムを用いて,2者が対話する時の表情を笑顔,怒り,悲しみの3種類に操作して,情動誘導の効果を調べる実験を行った。その結果,悲しみの表情を誘導した場合よりも笑顔の表情を誘導した場合に有意に覚醒度が上昇することが示された。 これらの結果は,触覚による情動誘導によって他者への認知が変化すること,および双方向的なコミュニケーションにおいても情動介入が可能であることを示唆した。
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