研究課題/領域番号 |
23650065
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 博史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30194640)
|
キーワード | 学習 / 技能 / 適応熟達化 / バーチャルリアリティ / 運動学習 |
研究概要 |
1.熟達度評価用課題実験環境の改良:昨年度は片手のみでの操作課題体験システムであったが本年度は両手操作課題評価可能なシステムに改良した。熟達度の評価に必要な選択する道具の内容とその回数、順序の記録が可能なシステムとした。これにより、専門家の意見と手技記録から分類し構造化した評価項目をもとに下位技能の習熟度の評価として重要な操作時の手の震えや操作時の道具の導線、解剖学的構造物との接触判定が左右同時に測定可能となった。また、画面を被験者への課題提示用画面と研究者用の課題実施管理画面の2つにわけ、課題実施中の課題実施管理も容易となった。 2.下位技能の習熟の評価:昨年度実験環境で体験可能な技能を専門家の意見を基に分類・構造化を行った項目をもとに、顕微鏡下に仮想臓器や神経を観察しながら同時に触覚デバイスで臓器を触知可能な左右両方の手技施行課題を試作した。これを用いて下位技能の習熟の評価項目についての検討を行い、本課題の下位技能としては手技内容とその際の両手の位置と用具操作時の振戦の程度と導線のパターンが下位技能の習熟度評価に重要である事が示唆された。 3.適切な問題解決のための知識の獲得の評価:手術書を基に技能対象となる手技の問題として顕微鏡空間にある構造物の把握の程度、それに基づいた最適操作空間の設定、問題解決に必要な道具の選択が重要である事が示唆された。 4.適切な評価基準の獲得の評価:顕微鏡空間内の解剖学的構造物の立体把握の程度が本課題の問題解決上重要であることが示唆された。特に後部頭頂連合野と前頭前野、第一次運動野、補足運動野、小脳の活動と熟達度との関連性についての解析の必要性を認めた。手技に関する手続き的知識の明示的知識の表象の再記述化と熟達度との関連を明らかにする事は、適切な評価基準の獲得メカニズムの解明にもつながることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.熟達度評価に必要な模擬技能実験環境の改良:実験環境の改良を行った。抽出された問題点を基に修正要件を抽出し、実験がさらに正確に行えるよう両手操作課題可能なシステムに改良した。特に、技能評価項目として顕微鏡下操作時点の両手操作導線測定、振戦の測定可能なシステムに改良した。技能に対しての模擬技能の役割を明らかにするために選択できる道具数を左右3種類に増やし、技能の熟達者と研修医に対して模擬技能訓練装置を利用したのちに模擬の役割が達せられたかどうかの検討に必要な問題に対応した用具の選択内容と順序、選択のタイミングが測定可能なシステムを開発した。技能獲得事例を3例作成し、システムにおける描画性能及び触覚提示性能に応じてデータ量の削減及び動的あるいは階層型LODの適応性についての検討を行った。模擬技能訓練装置の訓練装置としての妥当性に関する評価を行い課題提示画面と課題実施管理画面の2つに分け課題実施と管理を容易とするシステムを開発した。 2.下位技能の習熟の評価:初年度に構造化した技能の中の要素を基に状況に応じた左右の手で用具を操作する下位技能の習熟の有無が確認できるアプリケーションへの拡張を行った. 3.適切な問題解決のための知識獲得の評価:術者の反応時間の計測技術の改良等を行った。特に複雑な問題として脳幹,血管,脳神経,小脳,頭蓋骨といった主要な構造物の処理を課題として取り込んだ。技能の熟達者の手技の時系列計測とその特徴の抽出を可能なシステムとした。 4.適切な評価基準の獲得の評価:技能訓練上必要となる評価基準の獲得について改良した課題実験環境を用いて、評価実験を行った.これをもとに評価基準のさらに詳細な抽出を試みた。これをもとに模擬技能訓練装置の特徴を生かした熟達度評価獲得の有無の分析法の一般化を目指した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.熟達度評価に必要な模擬技能実験環境の改良:実空間下の操作とことなる顕微鏡操作での熟達度評価には立体視下での操作環境の開発が必要である。また、本研究課題での手技の測定には必要不可欠な操作は、生体組織の剥離シミュレーションの開発をめざし課題実施用のシステム及び血管や皮膜の剥離シミュレーションや脳表や微細血管や神経束の弾性変形を可能とする有限要素法や質点-バネモデル等を用いた課題コンテンツモデルへの改良と熟達度評価項目を測定可能な課題作成を目指す。 2.下位技能の習熟の評価:顕微鏡下操作技能習熟評価項目として本研究では操作開始時の対象物と操作開始時の視点の相対的位置関係と器具の操作時の手ぶれと軌道に注目した解析を行い下位技能の習熟の評価手法の開発を目指す。 3.適切な問題解決のための知識獲得の評価:専門家の意見と手術記録を基にした標準的操作手順項目とそのプロセスを基にした課題を改良し、構造物の把握の程度、それに基づいた最適操作空間の設定、問題解決に必要な道具の選択について統計学的評価可能な実証実験により適切な問題解決のための知識獲得の評価法を解明することを目指す。 4.適切な評価基準の獲得の評価:顕微鏡空間内の解剖学的構造物の立体把握の程度が本課題の問題解決上重要であり、運動学習理論で指摘されている前頭前野と線条体、小脳の活動と熟達度との関連性についての解析の重要性が示唆されたため、前頭前野や小脳の神経活動と熟達度との関連を明らかにする事で適切な評価基準の獲得メカニズムの解明のために課題実施時の前頭前野の脳波と小脳半球への脳血流測定を行い適切な評価基準の獲得との関連について明らかにすることを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1.熟達度評価に必要な模擬技能実験環境の改良:実空間下の操作とことなる顕微鏡操作での熟達度評価には立体視下での操作環境の開発が必要である。また、本研究課題での手技の測定には必要不可欠な操作は、生体組織の剥離シミュレーションである。この両者が可能な課題実施用のシステム開発費の一部として使用する予定。 また、2.下位技能の習熟の評価、3.適切な問題解決のための知識獲得の評価、4.適切な評価基準の獲得の評価を行うための被験者への謝金や成果発表用の旅費等に使用する計画。
|