本研究は,脳内修飾物質をニューロンの発火確率を制御する興奮物質と抑制物質の濃度場としてモデル化し,刺激時濃度分布を生成するニューロン群を抽出・記憶し,「認識」と見なそうという着想をもとに行われた. 始めに1)多入力多出力のセルオートマトン素子(CA素子)のCAルールが刺激に対応して選定されように構築しMATLABによる数値実験を行った.2)濃度場としてランダムウオーク場を構築しCA素子との相互作用を行わせが,離散発火点の局在性がそのまま,濃度分布に反映されてしまうという欠点が明らかになった.最終年度は期間を延長して,抑制と興奮の双対構造モデルを構築した.双対構造は,興奮と抑制の2値入力刺激に対して,興奮,抑制,平衡の3状態を出力として持つ構造で,刺激に対して局所的に分泌反応を加算平均記憶する平均化モデルを取り入れた.これによって,刺激事象を平均的なものとして記憶し,それからのズレだけ抽出記憶する局所反射反応モデルを構築した.本研究を通じて次の3点において発見があった.1.知能とはその発現する者が認識主体でなければならない.これを実装するには,反応の動機が必要であり,動機づけられた局所反射反応の集積として中央処理系が反応するモデル化必要である.2.脳内における興奮と抑制の反応も反射反応として捉えるべきである.3.認識は物理的事象そのものでなく,脳内状態としてバーチャル再現されるもので,繰り返し再現によって加算平均的に抽象化記憶され,新しい事象は平均的な状態からズレとして認識される.現時点では発見に対する論拠が確定していないので,今後も研究を展開する予定である. また,本研究から派生した研究として皮膚の温感反応を模したMEMS温容センサを開発した.これは温感反応と同じく表面からの熱の流出量を計測するもので,物質表面の熱物性計測装置として機能することを示した.
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