研究課題/領域番号 |
23650068
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
篠崎 隆宏 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (80447903)
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研究分担者 |
篠田 浩一 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (10343097)
関嶋 政和 東京工業大学, 学術国際情報センター, 准教授 (80371053)
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キーワード | 3次元構造予測 / 高分子 / max-sum / サンプリング / 因子グラフ / 蛋白質 / ab initioモデリング / 3次構造 |
研究概要 |
提案法は構造予測の対象となる高分子のエネルギー関数を、構成原子の3次元空間内での距離を手掛かりに取り扱いの容易な線形構造を持った因子グラフで表現することに基づいている。分子サイズが大きくなるにつれてMCMCによるサンプリングが難しくなる問題に対して、そのようにして作成した因子グラフの条件付き独立性を利用することによる、効率的な構造予測を目的としている。 本年度においては、前年度までの人為的なアミノ酸配列を用いた最適化実験に加えて、実際の蛋白質のアミノ酸配列を用いた最適化実験を行い、提案アルゴリズムの挙動の分析を行った。max-sumを用いた探索アルゴリズムにおいて探索される組み合わせの数は、因子グラフのノード数に対して指数関数的に増加する。このため当初は条件付き独立性に影響しない範囲でノード数を増やすことを試みた。しかし、実験結果の分析を行った結果、因子のチェインを長くし過ぎると、最適化の過程で中央の因子に対応する原子群の移動が制約を受ける現象が見られた。この影響は最適化の過程で適用する準ニュートン法による原子移動が大きいときに顕著となると考えられる。 この他、溶媒の効果のアルゴリズムへの組み込み方法について、検討を行った。静電気力については真空中では影響を考慮する必要のある到達距離が長く因子グラフの条件付き独立性を満たすのが難しくなるものの、溶媒中では実質的な到達距離が減少することから、アルゴリズムへの組み込みが可能と考えられる。溶媒効果の取り込み方法としては、分子の表面積の計算に基づいたアルゴリズムについて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度においては原子間結合距離や結合角等の分子内力に加えてレナード-ジョーンズポテンシャルを実装したソフトウエアを用いて、実際の蛋白質のアミノ酸配列を対象とした実験を行い、提案する高分子立体構造最適化アルゴリズムの挙動を分析した。提案するアルゴリズムは、分子力場をグラフィカルモデルの一種である因子グラフとして表現し、さらにそれをmax-sum探索に適した線形構造の因子グラフに変換することに基づいている。実験結果の分析の結果、線形な因子グラフの内部ノードでは準ニュートン法による最適化の過程で両サイドの因子に引っ張られる現象が確認され、この点を改善することで性能が向上すると期待される。本年度は年度途中において研究代表者の異動があり、改良アルゴリズムの実装や評価実験に当初計画に比べやや遅れが生じた。この点については、今後の取り組みでカバーできるよう努めたい。研究成果について、国際会議などで発表し、質疑応答などを通じて議論を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果として、提案法に準ニュートン法を組み入れた場合に原子の移動が大幅に大きくなることが示された。これは、線形構造を持った因子グラフ近似において、中間ノードのサンプリングに影響する。また準ニュートン法は比較的大きな計算量を要する。今後の研究の推進方策として、これらの点を考慮したサンプリングや探索アルゴリズムの改良に取り組む。例えば現在は3次元空間内の等間隔の並行平面による区分化を元に因子グラフを構成しているが、同心球体など他の区分方式を用いることも考えられる。また、サンプリングにおける初期値設定や探索のスケジューリングを工夫することも性能向上に有効と期待される。 溶媒効果への対応と静電気力は、提案法においては同時に考慮することがアルゴリズム構成上からも有効と考えられる。これは、溶媒中の方が静電気力の実質的な到達距離が短くなるため、因子グラフの構成において必要となる条件付き独立の要請を満たし易くなると期待されるためである。そこでこれらを同時に取り入れたアルゴリズムやソフトウエアの開発を進める。溶媒効果の取り込み方法としては様々なものが考えられるが、特に分子表面積の計算に基づいた手法について検討を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は、年度途中に研究代表者の異動が決まり、その準備や事後手続き等の為計画にやや遅れが生じたためである。次年度においては、新研究室における研究環境を早急に整え、引き続き研究を推進する。 研究では実際的な立体構造予測アルゴリズムの実現を目指し、アルゴリズムやソフトウエアを改良するとともに計算機実験を行う。前年度から繰り越した予算と合わせ計算機実験のためパソコン等の計算機やその関連機器を購入する他、スーパーコンピュータの利用を行う。実験データの保存のため、記憶装置の購入を検討する。また、研究成果の発表や情報収集の為に国内外の会議に出席したり、論文出版したりする為の費用等を支出する。
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