研究課題/領域番号 |
23650070
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小川 泰右 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 特任助教 (60586600)
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キーワード | オントロジー / サービスモデリング / プロブレム指向 |
研究概要 |
本研究の目的は,医療サービスにより疾病や障害を低減するという医学的な目的においての価値ではなく,医療サービスを実施することで患者の生活上の価値がどのようにもたらされるのか,または副作用的な問題が生じるのかを明示化することができるサービスモデリングの手法を確立することにある.平成23年度においては,医療サービスを目的指向でモデリングすることを基礎にして,医療サービスの設計においてステークホルダーにもたらされる価値を医療者がどのように想定しているのか,また副作用的な問題を想定しそれを低減することが試みられているのかを明示化する手法を構成した.平成24年度は,その手法を宮崎大学病院で試験的に実施することで,手法で意図した効用が発揮されたことを確認し,国際会議・国内研究会で報告するとともに,手法を実現するためのモデリングツールのプロトタイプの設計を進めた.この過程において,医療行為の設計のさいに語られる医療行為の副作用(プロブレムと呼ぶ)が設計意図の伝達においてはたす役割や,プロブレムの相関関係を捉えるためのデータモデルなどモデリングの結果を病院内で用いる電子カルテシステムに接続するうえで必要な知見が多数えられた.平成25年度は,モデリング手法・ツールを電子カルテシステムに搭載することを視野にいれ,電子カルテ上の情報とモデルの対応関係を検討することを通じてモデルを洗練させた.これにより,オーダーされた医療行為の意図を,現場の医療者に伝えるための基本的な枠組みを具体化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(平成25年度)は,これまで開発したモデリング手法を電子カルテシステムに接続することで,医療者が医療サービス設計で患者の生活内価値をどのように想定しているのかを明示化する方法を具体化した.前年度までのモデリング手法においては,医療行為は計画のモデリングであった,本年度はそれを医療行為の計画とアセスメントに整合するように拡張させた.医療行為は治療の進展とともに計画・実施・アセスメントが繰り返えされる.その中でプロブレムの存在が,医学的知識に基づく一般論として語られているのか,個別の患者の具体的事例として語られているのか,すなわち計画と実際の差異を表現することが求められる.このような計画と実際の差異をモデリングするために,事実と認識の区別,リスク概念の定式化(医療現場では未来の事象,想定外の事象,可能性としての事象をリスクと呼ぶ局面があり,それがモデリングの一貫性を損ねていた)などを行った.また,モデリング手法を基礎にして,医療者が医療サービスの設計で患者の生活内価値をどのように想定しているのかを聞き出すための手法を開発し,一定の効用があることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度(平成25年度)の成果であるモデリング手法を拡張することと,その応用として医療者が医療サービスの設計で患者の生活内価値をどのように想定しているのかを聞き出すための手法について,人工知能学会への論文の投稿を進めている.論文では,医療行為を設計するうえでの目的をなんらかのプロブレムの解消することとして表現することで,設計に関わる者がそれに合意すること,このような目的への合意を踏まえて解候補として複数の医療行為の可能性について検討させる,モデリング手法は,その際に得られた解候補を対比することを支援することで,医療行為の直接的な目的ではないが,医療行為が患者生活にあたえる影響,すなわち患者の生活内価値がいかに想定されているかをインタビューにより顕在化するための方法を提案する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に,研究成果を人工知能学会への投稿論文としてまとめる予定であったが,その一部となる関係者へのインタビューについて日程に折り合いがつかず遅延した.そのため,論文投稿にかかる経費が未使用となった. 学会誌での成果発表を次年度に行うこととし,未使用額は論文投稿にかかる経費に充てる.
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