本研究の目的は,医療サービスによって疾病や障害を低減するという医学的な価値だけでなく,患者生活の質の向上や満足といった価値がいかにもたらされるのかを明示することができるサービスモデリング手法を確立し,医療者間・医療者と患者間のコミュニケーションに利用することにあった.平成23年度においては,医療サービスがいかにプロブレムの解消と関わっているのか,または副作用として負の価値(プロブレム)を生じさせるのかを目的指向でモデリングする手法を構成した.平成24年度においては,手法に基づき医療サービスをモデリングできることを確認し,国際会議,国内研究会で報告するとともに,モデリング用のソフトウェアの設計を進めた.設計においては,サービスモデリングの結果をいかに病院内の医療情報システムと連携させるかを検討した.具体的には,医療サービスのテンプレートを個々の患者に適用することで,医療ガイドラインなどサービスのうちで典型性の高い側面をあらかじめ明らかにしておき,サービスを個々の患者に提供することで発見した患者に個別的な価値・プロブレムを捉えるソフトウェア機能を提案した.平成25年度においては,本サービスモデリング手法を基礎にして,医療サービスの価値について医療者間,医療者と患者が語りあうコミュニケーション手法を具体化した.この手法は,医療サービスの医学的価値の側面を本モデリング手法で明示することで,医療サービスの差異が患者生活の質の向上にいかにつながるのかということにコミュニケーションの焦点を当てることを誘導するというものである.平成26年度においては,手法が概ね意図した効用を発揮したことを人工知能学会論文誌で報告した.
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