研究課題/領域番号 |
23650073
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横尾 真 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (20380678)
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研究分担者 |
岩崎 敦 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 助教 (30380679)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ゲーム理論 / 最適化 / メカニズムデザイン / インターネットオークション / 架空名義入札 |
研究概要 |
本研究では自動メカニズム設計と発見科学における法則発見の技術を組み合わせることにより,小規模な (部分) 問題に対する自動メカニズム設計と,得られた結果からの法則発見を繰り返し実行し,大規模な問題に適用可能なルールを自動設計する方法を開発することを目的とする.ある環境に存在する人間の集団に対して,集団としての意思決定のルール/メカニズムを導入すると,何らかの社会的な結果が得られる.望ましい結果を得るためのメカニズムの設計方法に関する研究はメカニズム/制度設計と呼ばれ,ゲーム理論/ミクロ経済学の一分野として活発な研究が行われている.従来のメカニズム設計は人手によって行われてきたが,近年,メカニズム設計を最適化問題として定式化し,整数計画法を用いてメカニズムを自動設計するアイデアが提案されている.しかしながら,この手法では表の項目数/変数の数は参加者数に関して指数的に増加し,ごく小規模な問題にしか対応できない.また,得られた結果を人手により解析し一般的なルールを得ることは非常に困難となる.本年度は,架空名義入札と呼ばれる不正行為に対して頑健性を持つオークションメカニズムの設計を例題として,人手が介在する複雑な処理の繰り返しを,発見科学における法則発見の技術を用いて自動化することを試みた.まず,架空名義入札が存在しない場合に最も代表的なVickrey-Clarke-Grovesメカニズムのルールを自動的に抽出するアルゴリズムを開発した.次に,架空名義入札が存在する場合,最初に開発したアルゴリズムが正しく動作しない原因を明らかにし,新しいアルゴリズムを開発した.この結果,代表的な架空名義入札に頑健なメカニズムである適応的留保価格メカニズムの抽出にも成功した.本研究の成果を情報科学技術フォーラム (FIT-2011) に発表し,その最優秀論文賞である船井ベストペーパー賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に挙げた「既存の架空名義入札に頑健なオークションメカニズムの結果をテストデータとして用いて,これらのメカニズムで用いられているルールを再発見すること」は完全に達成できた.さらに,架空名義入札に頑健なオークションの設計以外の問題,* オークションの結果を見て他人を羨むことがない無羨望性を満たすオークションや,* 勝者の支払額を直接受け取るオークション主催者が存在しない場合の再配分オークションの設計に使えるアルゴリズムの検討をすでに始めている.一方で,ルール抽出自体にかかる計算量を吟味し,効率的なアルゴリズムの開発を進めている.さらに,自動メカニズムデザインとルール抽出を1つのシステムとしてシームレスにつなげる方策について検討を開始している.また,本研究に関連する成果として雑誌論文10件,難関国際会議11件,国内会議3件の論文を発表している.先に述べた船井ベストペーパー賞を含め3件の受賞があるなど国内外で高く評価される研究成果をあげており,十分な進展が達成できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
すでに部分的には検討を始めているが,基本的には一年目に開発したルールの自動抽出方法を,実際の自動メカニズム設計の結果に適用し,全く新しいオークションメカニズムのルールの獲得を行う.また,抽出されたルールの検証,新しいテストデータの生成方法の検討を行う.一方で,これまで検討してきたルールの自動抽出方法と異なるアプローチとして,自動メカニズムデザインの出力表を何らかの連続的な関数表現に置き換え連続的数理計画の手法を巧く適用できる可能性を発見した.これはもともとメカニズムは参加者の入札などの入力に対して,勝者などを出力する関数である.例えば,候補となるメカニズムの集合を多項式の集合 (多項式族) として表現できれば,各メカニズムは,多項式族のパラメータ (係数など) によって表現され,様々な制約条件を満たすメカニズムの集合を多項式族のパラメータの実行可能領域として求めることができる.これにより,これまで検討してきた方法とは異なる形で,一般的なメカニズムの系統的な抽出が容易になると予想している.さらに,メカニズム実行者がパラメータを変更するだけで売り手の収入や取引量といった性能を調整できるようになることが期待できる.これを実現するために,本提案ではまずパラメトリック最適化技術を自動メカニズムデザインに導入する.そこで,このようなメカニズムの関数表現やパラメトリックな手法の適用,そして,どれだけの規模の問題を解くことができるかの検証を進める.以上を通じて,架空名義入札に頑健なオークションメカニズムのみではなく,実時間で意思決定を行うオンラインのオークションメカニズム,さらには,マッチングや施設配置等の,金銭の交換が不可能な場合のメカニズム設計に関して,提案手法の適用可能性の検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
とくに当初計画と変える予定はないが,想定していた以上に成果が出ているため,国際会議投稿および発表にかかる経費は若干増加すると考えている.
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