本研究計画では,プロジェクタからパタン光を植物に照射し,葉の表面付近での反射光を物理的特性の異なる成分に分離する方法と,光合成の励起光と蛍光・吸収の測定光を分離する方法を実現し,クロロフィル蛍光計測を中心とする植物の光計測を高機能化することを目的とした.前年度までの研究により,前者の方法はその可能性について目処を付けることができていたが,当該年度においては,実験データの整理・解析を進め,より詳細な検証を行った.開発した方法は,プロジェクタからパタン光を動的に制御しながら葉の表面に投影し,それをカメラで撮影した画像を用いて,葉表面付近からの反射光を,表面で反射しそのままカメラに到達する直接成分と,葉の内部に入り込み葉表面から飛び出した後カメラに到達する間接成分の2つに分離する方法である.後者の間接成分にのみ,光合成活動と相関を持つと考えられる蛍光が含まれるはずである.従来の植物蛍光計測手法では,均一な照明とカメラの組み合わせで計測を行うが,提案手法は反射光の直接・間接の2成分を分離することで,従来方法よりも高い精度で蛍光計測および,それに基づく光合成状態推定が行えるというものである.この他にも,植物表面での直接反射(鏡面反射)成分を,画像1枚から色情報を用いて除去する新しい方法を構築した.これはスパース非負値行列分解を利用した方法で,従来の同様の方法に比べて,植物など特に分離が難しい対象でも高精度に行えるようにしたものである.なお,光合成励起光と測定光を分離するプロジェクタカメラシステムの開発は,当初計画していたようにはうまく行えなかった.しかしながらそれでも,完成した構造化光を制御し,蛍光計測を高精度化する方法は,その可能性を十分明らかにできたと言える.以上の成果は,論文誌に投稿予定であり,現在その準備を行っている.
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