本研究の目的は、動く線虫の神経活動を定量的に評価するために、蛍光画像の動画から蛍光発光強度を調べる領域(ROI: Region of Interest)を自動設定する手法の開発である。基盤研究(A)ならびに新学術領域研究において、線虫の動きを追跡するトラッキング顕微鏡を開発している。これは明視野透過画像を高速カメラで撮像し、画像処理を行って、高倍率かつ高速にXYZステージを制御するもので、生物の運動と神経活動(と強い関連のあるカルシウムイオン濃度に反応する蛍光タンパク質の発光強度)の両方を同時に計測することが可能である。本研究では、このトラッキング顕微鏡を用いる際に問題となる神経細胞の変形やフォーカスのズレ、蛍光発光の確率的時系列処理について解析し、神経細胞活動を正確に定量評価するための画像処理手法を開発することを目的としている。 具体的には、1.線虫自身の運動により神経細胞(細胞体と軸索)も変形し、移動するが、蛍光画像のどの領域が注目する神経細胞に相当するかを推定する。2.複数の神経活動を同時に計測するとき、蛍光画像中のどのピクセルがどの神経に対応するかを推定する。3.フォーカスのズレは原理的に必ず発生するので、それを補正しなければならない。などの課題が挙げられる。 これらの課題に対し、(1)あいまいな輪郭を抽出するのに有効な動的輪郭モデルに基づいて細胞変形モデルとモデルに基づくROI設定手法を開発し、トラッキング蛍光画像のオフライン処理方法を提案した。(2)解剖学的に得られた神経接続地図(インターネットで公開されている:wormatlas)を利用して、地図パターンと画像パターンのマッチングを行った。(3)地図パターンの三次元情報を利用して、注目するスライスに適応的に合焦するアルゴリズムを考案し、ステージのZ軸制御を併用することでZ面トラッキングを実現した。
|