計算機内では3次元物体形状は整数値を用いて管理されていて、物体に対する幾何操作は整数値に対する演算によって実現され、その結果もまた整数値で管理されている。しかし、現状は、実数値に対する実数演算という枠組で幾何操作が取り扱われており、施された幾何操作によって物体が有する幾何学的な構造や性質が破壊されるという問題がある。本研究課題では、「物体は格子点(整数点)上で表現されていて、それに施される演算もすべて整数演算である」という現実から一切逃避しないという立場にたち、整数演算のみを用いた幾何計算アルゴリズムを体系的に導出する枠組を構築することを目指している。 平成24年度は、許容する変換を剛体変換に拡張し、2次元格子点上での剛体変換(離散剛体変換)が有する性質を検討した。その結果、離散回転の時と同様に、変換の許容範囲が存在し、その範囲内にある剛体変換を施した結果は同一となり、離散剛体変換全体の構造は、許容範囲の組合せによって記述されることが分かった。 また、本研究課題を推進する上で発掘した幾何モデル当てはめ問題に関して、外れ値を含む格子点データが与えられた時、データ点を説明する離散多項式曲線を求める手法を開発した。具体的には、離散多項式当てはめ問題を、離散多項式曲線を説明するデータ点の数を最大にする多項式係数を求める最適化問題として定式化し、効率的に多項式係数を求める手法を開発した。ランダムに選んだインライアーによって多項式係数を決定する手続きを何度も繰り返し最終的な解を求めるRANSACによる従来のアプローチでは、得られた解の性質に何の保証もないが、提案手法で得られる解は、集合の包含関係の下で局所最適解になっている。
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