人間や、生体の嗅覚応答をより定量的に予測することは、生活のさまざまな面において有用である。本研究では、匂い物質の物理化学的な特徴を定量的に分析することによって、匂いの知覚を予測する方法論を検討した。 まず、前年度にニューラルネットワークを用いて行った嗅覚受容体応答の予測法をさらに検討した結果、サポートベクトル回帰によって、予測の精度を向上させることに成功した。続いて香料成分として用いられる化合物と、自然に多く存在し、動物が一般的に利用している化合物の物性について、それぞれの物理化学的特徴を示す分子記述子を分析することで、両者をある程度の精度で判別可能であることを示した。また、香料の構成成分の多様性を評価する指標を提案した。 最後に複合臭の構成成分数と、匂い物質の強度の関係について検討し、複合臭では、単一成分から構成される匂いに対して、濃度の変化に対し、匂いの快適性がより安定であることが分かった。前述の嗅覚受容体応答の予測器を用いて嗅覚受容体応答を評価したところ、類似した嗅覚受容体セットが活性化される場合、知覚は安定的であり、多様な嗅覚受容体が活性化される場合、濃度に対する快適性の変化が大きいことが分かった。複合臭を構成する要素臭の組み合わせのパターンが、知覚の安定性を決定するメカニズムを提案した。
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