1.一分子時系列情報から観測ノイズを取り除く新しい情報理論的アプローチの開発 任意の確率分布関数に対するノイズをもつ観測値の時系列データから、背後に存在する物理量を評価する解析理論を新規に開発した。当該理論は、非バイアス度を最大化(=測定結果から評価された物理量の期待値の、背後に存在する物理量の真値からのズレを最小化)したり、リスクを最小化(=真値からのズレの期待値)することが可能となり、データのサンプル数に応じて、適時選択することができる。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定する際に得られる光子のパルス列をシミュレートし、背後に存在する色素分子間距離を推定し、これまで提案されてきた情報論的ビニング解析よりも優れていることを示した。 2.一分子時系列情報から局所平衡・詳細釣り合いを前提としない、状態空間の階層的遷移ネットワーク構造を再構成する新規な時系列解析法の開発 多変量からなる複雑な系に対して、背後に存在する力学方程式などが未知の状況のもと、限られた多変量データから如何にして背後に存在する変数のあいだの(高次相関などの)階層的従属関係を推論することができるかという問いは、生物物理において最重要課題のひとつである。情報理論に基づく連結情報量と呼ばれる手法を用いて、ミクロ変数の結合確率が与えられたときに、それらの変数のあいだの階層的従属関係、どのような場合に、全結合確率のエントロピーがべき集合を構成する複数の変数群のエントロピーに分解できるか、換言すると、全体の挙動が構成要素の局所的挙動の単なる"和"で評価できるか否か、に関する基礎理論を構築した。情報理論的なモジュール構造と呼ぶべきもので、時系列データから構成される局所平衡・詳細釣り合いを前提としない、状態空間の階層的遷移ネットワークの解析に今後適用できるものと期待される。
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