研究課題/領域番号 |
23650127
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
井口 寧 北陸先端科学技術大学院大学, 情報社会基盤研究センター, 准教授 (90293406)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 日本語教育 / クラウド / 通信遅延 / e-ラーニング / Web教材 / 遠隔教育 / Web学習 |
研究概要 |
本研究は,クラウド上にWeb 教材の配信拠点を構築することによって,従来のWeb 教材で問題となっていた配信遅延を解消し,円滑な遠隔学習環境を提供する.日本語教育分野では,学習者の地理的密度が高くないため,Web 教材を用いた教育が期待されてきたが,Web サーバと学習者との通信状態は必ずしも常時良好ではなく,モデル音声の発声などにおける応答遅延や単一のサーバへのアクセス集中によるレスポンス低下が問題となっていた.一方,近年ではクラウドが利用可能となり,アプリケーションをユーザが容易に世界各地にあるクラウド上に構築でき,世界中の多くの地域から複数のクラウド拠点に円滑にアクセスできる.そこで本研究では,世界各地のクラウド・サイトに日本語教育Web 教材の配信拠点を構築することによって, 伝送遅延やアクセス集中を軽減し, 円滑な学習環境を世界各地の学習者に提供する体制の構築法を研究するのが,本研究の目的である. 2011年度は,クラウド利用の基礎的知見の取得と日本語学習Web 教材のコース設計を行った.まず,世界的なクラウドサービス提供会社のAmazon EC2にアカウントを作成し,利用環境を整備した.Amazon EC2のサービスは東京,北米,欧州など世界各地にあるが,基礎的知見を得るため,東京を拠点とした.日本語学習Web 教材のコース設計について,日本語教育チームと数回の打合せを設け,彼らの有するコンテンツと学習項目について検討した.具体的には,北海道大学の小河原(連携研究者)が持つ学習コンテンツを,クラウド化する場合の課題と,新たに作成する学習コンテンツの内容について協議した.当初計画では,2011年度中に教材となるビデオクリップの撮影を行う予定であったが,撮影予定の宮城教育大学が東日本大震災で被災したため,撮影については未着手となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年度の実施項目は,(1)クラウド利用の基礎的知見の取得,(2) 日本語学習Web 教材のコース設計,(3) ビデオクリップの作成,(4) Web 教材の作成 の4点であった.(1)クラウド利用の基礎的知見の取得について,既にAmazon EC2の東京拠点と契約を結び,クラウド利用を開始し基礎的知見を得ている.この結果,実際に様々な通信状況からアクセスを行い,許容可能なレスポンスが得られることを確認した.但し,会計的には,Amazon EC2は一定以上の請求金額にならないと実際に請求が行われないためか,請求は年度内には得られていない.(2) 日本語学習Web 教材のコース設計については,連携研究者の小河原,高橋が中心となって進めている.2011年度は研究代表者と小河原が4回,高橋と2回,才田と2回,川添と2回の打合せを行い,内容は詳細に検討されている.その結果,小河原が既に既存のコンテンツを幾つか有しており,これがWeb化可能なことが分かったので,小河原の有するコンテンツを発展・拡充させてWeb教材を設計した.この点では,予想以上の進展が得られている.一方,(3) ビデオクリップの作成については,撮影場所として宮城教育大学を予定していたが,東日本大震災で被災したため,状況を確認しているところである.撮影場所自体は利用可能な状況であるが,周囲で復旧工事を行っており,工事の雑音が入るのが問題である.復旧工事の進捗によっては,別の場所での撮影を考える必要がある.(4) Web 教材の作成については,一部作成済みである.
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は,まずビデオクリップを含めたWeb教材の作成を行う.撮影について,宮城教育大学のスタジオが利用可能な状況か再度調査を行う.もし別の場所での撮影の場合,依頼予定のカメラマンの出張費が大きな支出となってしまうので,別の撮影業者の利用も含めて考える.あるいは,ビデオでなく,録音だけで行うことも検討しているところである.Web教材の多地点クラウド上への実装については,予定通り行う予定である.学会発表等について,既に1件に投稿済みであり,別の1件の投稿を予定している.本研究の最後に,利用評価を行い,この評価に基づいてWeb教材の改良を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度は未使用額が生じたが,この理由は連携研究者のうち3名が東日本大震災の影響を受け,連携研究者の有するスタジオでのビデオ撮影が不可能だったからである.また,クラウドとしてAmazon EC2を利用しているが,請求がまだ届いていないのも支払が遅れている理由である.2011年度分の未執行予算の内,クラウド利用の請求が来たら直ちに支払い,予算を執行する.未使用予算はビデオ撮影費用が大きなウェイトを占めるので,2012年分と合わせてビデオ撮影を早急に進める.2012年度の研究費使用計画として,国際会議に投稿予定であるので,採録されれば学会発表のために旅費を支出する.研究打合せは継続して行い,年回4回程度を予定している.2012年度は,世界で複数のクラウド拠点を利用するので,前年度に比べてクラウド使用料が大幅に増加予定である.尚,今回は連携研究者のうち3名が東日本大震災の影響を受け,本プロジェクトの進行にも大きな影響があったが,基金化され繰り越しができるようになったので,全体の基本計画を変えずに,震災からの復旧状況に応じた無理のない執行が可能となった.たまたま基金化の第一年目で震災があったのだが,基金化の利点が活かされている.このため全体の基本計画の大幅な変更をせずに研究を進める.
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