研究課題/領域番号 |
23650131
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安達 真由美 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30301823)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 音楽 / 妊婦 / 胎児 / 発達 |
研究概要 |
本研究の目的は、胎児の音や音楽に対する反応・馴化に、「胎児自身の特性」(聴覚形成前を含む胎齢期を通しての振動音刺激に対する鋭敏性、心拍変動の度合い等)と「母親(妊婦)の特性」(音や音楽に対する生理的・心理的反応の違い、気質等)がどう関わっているのか、実験的かつ縦断的に探究することを目的としている。今年度は、以下の内容について行った。1. 音楽刺激選定のための実験:女子学生30人を対象に、バッハ作曲『無伴奏チェロ組曲』の中から、昨年度中に仮選定された22曲の冒頭約1分からなる刺激を聴いてもらい、各曲聴取後の自分の気分(例:「はっきりと目が覚めている感じーまどろむ感じ」等、4つの6件法両極尺度)と曲の感情的印象(例:「楽しそうに聞こえるか」等4つの6件法単極尺度)について評定してもらった。この結果から、最も「楽しい曲」「優しい曲」「悲しい曲」それぞれ4曲ずつ選定した。2. 音楽に対する感じ方・印象の抱き方に与える気質の影響を調べるための分析:上記1で述べた実験において、音楽聴取後に『成人用気質調査票ショートフォーム(日本語版ATQ)』を用いて参加者の気質を測定した。この調査票は、否定的感情、外向性・高潮性、エフォートフルコントロール、定位敏感性という4つの尺度と13の下位尺度からなる。分析の結果、曲の感じ方は外向性・高潮性と相関があり、そのうち特に、社交性と高い相関がみられた。さらに、社交性の得点が高い人は低い人よりも、曲の感情的印象を感じやすいことがわかった。各曲聴取後の気分には、気質の影響は見られなかった。(この実験の成果は、5月に行われるAmerican Psychological Scienceにて発表する予定である。)この結果を受け、妊婦対象実験では、女子学生と同様の気質の影響が見られるのか、それとも妊婦の場合には気質の影響は異なるのかについて検討したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
理由1:妊婦心拍の連続測定用の心電計(Shimmer社)を海外から安く購入したものの、その測定器の設定に思った以上の時間がかかってしまったことと、その測定値の妥当性の検証が難しいことから別の心拍測定器を探さなければならなかったため。理由2:上記(1)の理由により、実験のハード面の確立が遅れたことから、なかなか産科医院への参加者募集の協力要請が行えなかったため。理由3:新たに探した心電計のデータと刺激として提示する音楽の時間軸をどのように合わせられるか、その手法の検討に時間がかかったため。理由4:協力要請に行った産科医院の医師の意見と、過去に音楽を用いた胎児実験を行った研究者のアドバイスから、胎児実験の段取りを再構成する必要がでてきたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の達成度が遅れてしまった理由1-3に対する対策:今年度終了時までに、医学系研究で広く使用されているGMS社の心電計を確保し、妊婦対象実験を進められる目処がついた。心拍データと音楽の時間軸を合わせる方法も、ほぼ確立できつつあるため、妊婦による音楽聴取実験は、次年度の早い時期から行うことができる。本研究課題は「基金」からの助成であり、1年間の延長申請ができるので、研究遂行上必要と判断した場合には、次年度での終了予定を1年延長する。今年度の達成度が遅れてしまった理由4に対する対策:胎児実験では通常の妊婦検診で使用するよりも長い時間超音波装置で胎児の様子を追う。このことの安全性について、不安を抱く妊婦がいることがわかった。また、先行研究で胎児の行動データを採集した研究者から、胎児の動きに関する妥当なデータを収集するためには、5分間必要であることを聞いた。そこで、これまでの胎児を対象とした音楽提示実験の平均的な時間を超えないよう、また、胎児の行動データを5分間のスパンで収集できるよう実験方法を改変した上で、周産期医学の専門家に安全性を確かめ、その上で、胎児実験の協力要請を行うこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のとおり、本研究のメインの実験の開始が大幅に遅れてしまったものの、少なくとも、妊婦対象実験の遂行の目処はたっているため、今年度の残額を次年度における実験参加者への謝礼、唾液中のアミラーゼ測定のための消耗品に使用する。さらに、縦断的に行う妊婦&胎児実験では、参加者への謝礼、妊婦のアミラーゼ測定用の消耗品に加え、超音波装置が使える技術者を研究補助として雇用するために使用する。さらに、当初の予定通り、国内外の学会で成果を発表するための旅費にも使用する。
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