脳の時間情報処理のモデルはリズムを刻む「クロック」を仮定することが多い。しかし、その周波数が何Hzであるか、は未解明の問題として残されている。本研究では、10Hzのα波がその基本周波数ではないか、というα波仮説を、外部からの強制同期法を開発して検証する。われわれは偶然、時間順序判断がα波の位相に依存して逆転するという予備的な現象を発見した。しかし、受動的なα波の解析では十分安定な結果を得るに至っていない。そこで本研究では経頭蓋的に微弱な交流刺激を加えてα波の位相を同期させる手法を開発して、時間知覚がアルファ波の位相に依存することを明確に示すことを目標とした。 平成23年度には、経頭蓋交流刺激によって、刺激時点の交流波の位相に応じて時間順序判断が影響を受けることを示唆する予備的なデータを得た。しかし、本年度の追加実験では必ずしも現象が再現されなかった。そこで原点に立ち返って、時間順序判断がα波の位相に依存して逆転するかどうかを9名の被験者を用いて確認する実験を行った。その結果、左右の手に加えた時間差100 ms程度の刺激に先行する300ms程度の期間において、順序判断の正解試行と、逆転試行の間に有意な位相差が生じていることを確認した。さらに一部の被験者では、左右の半球のα波の位相差が2つの特定の値に集中する傾向があり、判断の正解、不正解が位相差の状態に対応する有意な傾向を示した。つまり、時間順序判断は左右の半球間の位相差の状態にも依存することが示唆された。2枚の電極を正中線上に貼付した平成23年度の実験では、両半球の位相を一致させる方向にドライブがかかり有意な効果が生じなかった可能性がある。今後は、なぜα波の位相や左右半球間の位相差が順序判断に影響を与えるのかに関する仮説を構築して、複数の電極を用いた効果的なドライブ法を開発して研究を展開する必要である。
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