研究課題/領域番号 |
23650147
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
村上 征勝 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (00000216)
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キーワード | 仏像の造像様式 / 多次元解析 / 楕円フーリエ級数 |
研究概要 |
本研究の目的は、これまで定性的な観点からの研究が中心であった仏像の造像様式を定量的な観点から解明する点にある。具体的には、正面及び側面より撮影された写真から得られる仏像頭部の形状データを多次元解析法で解析し、造像様式に関し定量的観点から新たな知見を得ることによって、データに基づく仏像研究の基盤を確立することを試みる。さらに、国宝・重要文化財の仏像のように実際に3次元計測が困難な文化財、美術品等の形状の数量的特徴を、写真から得られる2次元情報で把握するためのデータ分析法の開拓も目的とする。 本年度は、平安期・鎌倉期の仏像の目の輪郭形状に焦点を当て、各時代の目の形状に特徴が見られるか検討した。そのために、平安期・鎌倉期の仏像各20体、計40体の仏像の目の形状を楕円フーリエ級数で近似し、得られた楕円フーリエ級数の係数に対して主成分分析を試みた。 この分析では、平安期と鎌倉期の目の輪郭形状の特徴を明確にするまでには至らなかったが、分析を通じ楕円フーリエ級数で造像様式の解明を試みる際の問題点、及び正面から撮影されたと思われる写真の撮影角度のずれの補正問題の重要性が明確となり、この撮影角度のずれを検出し、補正する方法について検討した。また白毫、口、耳などの頭部の各部位の位置情報を多次元解析することで造像様式の違いを定量的に把握することも試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は仏像の目の形状を対象に形状認識のツールとして有効と思われた楕円フーリエ級数の応用に重点を置き分析を進めたが、平安期と鎌倉期の造像形式の違いを明確にする迄には至らなかった。しかし研究を進めていく過程で今後の研究遂行上の問題点が幾つか明らかになった。 まず分析が順調に進まなかった原因として、仏像頭部写真からの目の形状の切り出しにおいて、頭部写真が真正面から撮られていないことにより目の形状が歪んでいる可能性があったことと、形状の切り出しが安定していないことが原因でデータの精度に問題があったことが考えられた。 撮影角度のずれが原因で生じる目の形状のゆがみに関しては、撮影角度のずれを算出し、そのずれの角度を用いて、真正面から撮られていない頭部写真の顔の部位の位置情報を、真正面から撮られた場合の位置情報に変換する補正式は作成済みである。 また楕円フーリエ級数の特徴を十分把握していなかつたことも原因の一つと考えられる。この点に関しては、いろいろな形状を楕円フーリエ級数で分析するシュミレーションを行い、楕円フーリエ級数の振る舞いを調べたが、十分に特徴を把握することは出来なかつた。 更に目の形状以外に頭部全体の造像様式を把握するには、頭部のどの部分に着目すべきかに関し幾つか分析を試みたが、残念ながら良い結果は得られていない。この点に関しては、仏像研究者の先行研究から有効な情報を得るためにさらなる情報収集が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
まず造像様式の変化をどのよう頭部形状のどのような部位に注目し把握するかという最も基本的な事柄を再考する。仏像頭部の造像様式の数量的分析に関する研究は申請者の研究以外は皆無に近い状況にあるため、従来の美術史等での定性的な先行研究の成果を参考に、まず楕円フーリエ級数を用いることが出来る閉じた曲線である目の形状に注目し分析を試みた。しかし目の形状だけでは造像様式の変化を把握するには不十分であるという結果を得たので、目の形状以外に数量分析で造像形式の変化が把握できそうな箇所を探索的なデータ解析法で探り、次に複数の顔の部位に関する情報を多次元的に解析することで、仏像の造像様式の変化を把握する。特に正面写真から得られる情報と側面写真から得られる情報とを有機的に結び付け、3次元の形状としての造像様式の変化を把握することを試みる。 また楕円フーリエ級数を用いた際の形状認識における問題点を調べ、有効的に分析に用いる方法を再検討する。 分析において仏像頭部写真が分析面から撮影されていない場合の撮影角度のずれによる頭部形状のゆがみの補正は、顔のあらゆる部位の分析においても必要となるため、前年度作成した頭部形状を円柱と仮定した場合のゆがみの補正式を再検討し、補正の精度を向上させることを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費は仏像の写真データや仏像の造像様式に関する研究資料の購入費である。平安期、鎌倉期の仏像に比較し、奈良期以前、室町期以後の分析可能な写真データは少ないため主としてそれらの時代の仏像写真の購入に充てる。 旅費は博物館等での情報収集と国文学資料館での仏像に関する研究資料、統計数理研究所でのデータ分析法に関する最新の研究資料、および研究会、学会での研究成果発表のためのものである。 謝金は資料収集整理、データ取得、分析補助のためのものである。
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