本研究の目的は、美術、仏教研究において重要な位置を占める仏像の造像様式の変遷について、仏像の頭部の形状を多次元解析法で解析することにより、仏像の像造様式に関する従来の定性的研究の成果を数量分析の観点から検証し、3次元の物体の形状への数量的研究の必要性と重要性を明らかにする点にある。 具体的には、これまでの仏像研究で指摘されてきた、11世紀前半に仏師定朝により完成されたとされる和様の様式(定朝様式)と、定朝以後の12世紀後半からの鎌倉様式の造像様式の違いを数量的な観点から明らかにすることを試みた。 仏像は5種類に分類されるが、本研究では分析対象の仏像を如来像に絞り、その頭部形状のみを分析することとした。分析に用いたのは、像造銘記により制作年代が明確な平安時代後期の仏像13体、鎌倉時代20体の計33体である。現時点では多数の仏像頭部の3次元情報を得ることは不可能であるため、各仏像に関し、頭部の正面写真、側面写真の2枚の写真を用い、目、鼻、口、耳など顔の部位の位置情報から3点間の角度情報を求め、二つの時代間の違いが現れていると思われる角度をまず見出し、それらを主成分分析にかけることによって、数量的な観点から総合的に二つの時代の如来の顔の形状の違いを明らかにすることを試みた。 その結果、顔の面長さに平安時代後期と鎌倉時代の像造様式の違いが見られるという結果が得られた。この結果は従来の定性的研究結果を裏づけており、今後の数量的観点からの仏像研究の信頼性を保証するものと考えられる。
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