本研究は、内部に発現制御ネットワークを持つ細胞が相互作用している多細胞系の数理モデルを用いた解析によって、未分化細胞の分化/脱分化機構の理解することを目的としている。可能な制御ネットワークの全探索を行うことによって、出現し得る分化過程のダイナミクスを網羅的に解析し、その過程における不可逆性や安定性の出現機構の理解を目指す。 24年度は、細胞状態の多様性を適応度とした遺伝的アルゴリズムを用いて、細胞間相互作用によって細胞状態の多様化をもたらすことが可能な遺伝子制御ネットワークの探索を行った。そこから、細胞の状態が遷移した後に、一部の細胞が元の状態にと留まるという幹細胞的な振る舞いをするケースを抽出したところ、そのすべてにおいて、分化能を持つ細胞は振動する遺伝子発現ダイナミクスを持つことが示された。また、そのように振動する発現ダイナミクスを持つ細胞からの分化過程は、一部の細胞を取り除くといった外部からの摂動に対して安定であることを示した。加えて、そうした幹細胞的なダイナミクスをもたらす発現制御ネットワークが持つ性質を調べたところ、特定のフィードバックループが有意に多く存在することが確認された。こうした結果に基づき、マウス初期胚におけるエピブラストと栄養外胚葉の分化ダイナミクスを説明できる数理モデルの構築を行った。 上記の結果については論文準備中であるが、今年度の特筆すべき成果として、Science誌にperspective論文を発表し、幹細胞分化過程における時間的に振動する発現ダイナミクスの重要性について論じたことが挙げられる。
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