研究課題/領域番号 |
23650154
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡田 眞里子 独立行政法人理化学研究所, 細胞システムモデル化研究チーム, チームリーダー (10342833)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 細胞ネットワーク / 数理モデル / 単一細胞計測 |
研究概要 |
細胞は分子ネットワークの回路を変化させ異なる出力を生み出す。また、このことは細胞応答の不均一性を生み出す原因ともなる。このような細胞応答の不均一性は、細胞の生き残り戦略として重要である一方で、癌や疾病における薬剤抵抗性などの弊害をもたらす。乳癌細胞は、ホルモン受容体の応答性が細胞間で非常に不均一な細胞種のひとつであり、この理解のためには、分子単体ではなく、細胞ネットワークの回路の概念が必要となる。本研究では、乳癌細胞の薬剤耐性における回路変化を同定するために、細胞の分子活性出力を単一細胞レベルで実験定量的にモニタリングし、数理モデルを用いて、背後にある分子制御を予測する。このためには、最近開発された、Mass Spectrometer-based Flow Cytometer(CyTOF)を用い、複数の分子種の一細胞レベルでの解析を行う。この実験手法を用いて、一回の実験で得られる数万個の細胞に関するデータをもとに、数理モデルを用いてネットワーク回路の同定を行う。本年度は、乳癌細胞ネットワークに関わる分子制御の情報を文献や公共データベースから集め、基本となる実験測定分子を決定した。また、CyTOF測定の実験項目や条件を定めるために、フローサイトメトリーを用い、抗体の選択と細胞条件検討を行った。測定項目を中心とした数理モデルを構築した。数理解析は、Fuzzy logic modelのほかに、他の数理モデルの検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、過去の実験データや文献情報を調べ、薬剤耐性乳がん細胞の増殖に重要な役割を担う、ERKおよびAkt分子に注目し、単一細胞解析を行うこととした。まずは、一般的なフローサイトメトリーを用い、成長因子の濃度依存性に対するMCF-7乳がん細胞のERKおよびAkt活性化応答の時間変化(10, 30, 60分)を計測した。その結果、最も細胞集団の活性値の違いが異なるのは、それぞれの分子の活性化ピークに当たる10分で、そこではERK活性は濃度変化に対して完全な2峰性(低活性と高活性の2つの細胞集団の存在)を示した。Aktは同条件で2峰性は示さず、ほぼ線形の濃度依存性を示した。このことから、細胞集団における成長因子に対する不均一な応答は、分子間に差があること、またAktよりもERKにおいて顕著であることが明らかになった。次に、この成長因子の条件で、CyTOF (Mass Spectrometer-based Flow Cytometer)の計測を開始した。この過程で、思っていた以上に、CyTOFの抗体ラベリングの実験条件が安定しないことがわかった。現在、実験条件の最適化を行なっている。数理解析では、一細胞挙動の実験データを解析するためのモデルを開発するため、様々なシミュレーションモデルを構築し、試行した。当初考えていたFazzy Logic Modelよりも簡単なモデルでデータの解析が可能であるように考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、MCF-7を用いCyTOFの実験条件の最適化およびデータ収集を行う。測定分子種数を増やす。その上で、タモキシフェン薬剤耐性細胞のMCF-7細胞の測定を行う。ERK/Aktの制御因子のノックダウンの影響を単一細胞レベルで解析していく。これらの実験データを元にした数理モデルの解析を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額: 0円細胞培養試薬、消耗品、および抗体の購入に全ての研究費を充てる。
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