我々は直立姿勢を動的に安定化しつつ同時に運動の柔軟性も確保することが可能な神経制御メカニズムを提案している.この仮説では,脳神経系は「直立姿勢状態がサドル型の不安定性を有する」という身体の機械力学的特性を利用し,姿勢状態に依存した適切なタイミングで間欠的に神経フィードバック制御を休止することで,フィードバック時間遅れに対してロバストに,姿勢の柔軟性を担保しつつ,かつ高いエネルギー効率で立位姿勢の安定化制御を実現していると考える.本研究では,間欠制御戦略が脳神経系によって実際に利用されていることを検証するための方法論の確立に挑戦した.そのために,直立姿勢維持能力を学習によって獲得したニホンザルを用いた実験的および理論的研究を実施した. 平成24年度は,ニホンザルが自立して立位姿勢を取る際の下肢筋活動記録を行った.ニホンザルは約2年の経過で垂直に近い直立姿勢を獲得し安定した二足歩行が可能になる.このようなサル2頭を実験対象とし,立位時の両側の前脛骨筋(TA)と内側腓腹筋(MG)の筋活動を5分間記録した.サルの頭部は固定されておらず,無拘束状態である.一定時間間隔で報酬を与える際に生じる頭部から体幹の小さな運動は静止立位を持続する際の外乱となる.筋活動を観察すると,静止立位時にはMGが時々バースト的に活動するのに対し,TAはほぼ無活動あるいは低活動であった.外乱が加わった際に始めて,TAの筋放電が観察されることが多かった.これらの筋活動はヒトの静止立位時の筋活動様式と類似しており,安定した立位姿勢を取ることが可能なサルはヒトと同様の立位姿勢制御メカニズムを発動している可能性が示唆された.理論的側面では,サルの直立姿勢制御の数理モデル基盤として,二重振子の間欠制御モデルの構築と動態解析を行った.本研究で確立した基盤により,立位姿勢制御の学習戦略が明らかにされることが期待される.
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