研究課題/領域番号 |
23650157
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木村 敏文 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (00316035)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生態画像解析 / 個体行動解析 / 社会性昆虫 / ミツバチ |
研究概要 |
本研究は研究代表者を含む日本の研究グループとオーストリア・グラーツ大学の研究グループで行う共同研究「個体神経機構を反映したコロニーモデルによるミツバチの環境適応機構の統合的理解」の一環として行っている。研究代表者の役割は「個体レベルでの個々のミツバチの行動を数値化すること」、「集団としての行動を把握するためのデータ取得を行うこと」であり、実験に適した個体追跡システムの構築およびデータ取得・提供を担当している。平成23年度は研究代表者が勤務する大学の長期在外研究制度を利用して、研究協力者が所属しているオーストリア・グラーツ大学で客員研究員として、実施した。この年の研究課題は「平面上の複数ミツバチの個体追跡システムの開発および改良」である。本研究を実施に先駆け、2008年よりグラーツ大学Crailsheim教授の研究グループと共同研究で、個体追跡システム(Kimura et al., 2008, 2010)の開発を行っていた。システムは、追跡率に問題はあるものの、国際会議や国内学会、研究会で高い評価を得ている。年度当初はこの旧システムを用いて、研究協力者であるグラーツ大学・Crailsheim研究室で撮影された若いミツバチの行動実験における個体追跡実験を行った。この映像は、温度勾配のある円形アリーナに複数ミツバチを放ち、行動を解析するために撮影されたものであった。この映像を旧システムで処理を行い、個体ごとの位置を取得し、移動軌跡を描いた。同時に、グラーツ大学の研究協力者と実験・解析に必要な行動データ収集項目の検討や個体追跡システムの改良点について、ディスカッションを行いながら、システムの改良を行った。システムの問題点を解決するための改良を行い、一定のシステム性能向上を実現できた。また、複数個体の位置、移動軌跡とともに、2個体間の距離の測定、接触・交差検出を可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究課題は「平面上の複数ミツバチの個体追跡システムの開発および改良」であった。具体的には次の2つのこと、(1)旧システムを用いた実映像におけるデータ取得実験、取得データの検討およびシステム改良のための問題点の洗い出し、(2)システム性能向上を目指したプログラムの改良、を行った。課題(1)ではオーストリア・グラーツ大学の研究協力者Crailsheim教授、Schmickl博士の研究室で撮影されたミツバチの行動ビデオを用いた。このビデオは、温度勾配のある円形アリーナ上に複数のミツバチを放ち、ミツバチの行動と温度の関係を解析する実験のために撮影されたものである。グラーツ大学で滞在して、研究を実施できたため、行動実験で必要なデータについて、適時、グラーツ大学の研究協力者とディスカッションを繰り返し、旧システムで取得可能な個々のミツバチの位置や移動軌跡とともに、新たに2個体間の距離の変化や接触・交差検出も必要となった。また、実験を行っていくうちに、同じ撮影条件で撮影されているにも関わらず、ミツバチが行動できる範囲に一様の光が当たっておらず、光のムラができることがわかった。さらに、2個体の交差・接触が追跡を行う上で障害となっており、また、3個体以上の交差・接触はそれ以上に複雑なものになっていることがわかった。課題(2)では、課題(1)において、見つかった問題点を改善するための対策を検討し、プログラムの改良を行った。新システムでは、個体検出や追跡精度の向上させるために、これまでは行っていなかった「フレキシブルなしきい値を用いた個体検出」や「個々の個体の動きを予測するための直線移動予測の導入」を行い、性能向上させた。さらに、必要なデータの自動取得のためプロトコルを検討し、実装することができた。よって、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は23年度に開発したシステムの論文や国内外の学会で発表を行っていき、その成果のまとめを行う。同時に、平成23年度の成果である新システムを用いて、行動解析、モデル化を行うために必要なデータを実映像から取得するために、データ取得を行う。具体的には次の2つの課題に、(1)個体間相互作用の解析のための実データ提供、(2)ミツバチの社会性行動シミュレーションのための実データ提供、を行う。課題(1)は、徳島文理大学の岡田博士らは個体間相互作用の解明は観察巣箱の映像から個々の個体の行動を手作業で解析を行い、個体間相互作用のモデル構築を試みている(Okada et al., 2010)。新システムを用いて、個体の位置、移動方向、速度、向きに加えて、個体間の距離、個体の接触頻度や時間、接触後の行動の変化などのデータ取得を目指す。課題(2)はグラーツ大学のCraishiem教授、Schmickl博士の研究グループは年間を通してのミツバチの巣内行動をモデル化した(Schmickl and Craishiem, 2007)。このモデルをより現実に近付けるために実データに基づく、モデルの構築するためには岡田博士の観察巣箱からの実データ、兵庫県立大学・池野教授らが作成した観察巣箱を継続的に記録している映像(高橋ら,2010)、Craisheim教授らが環境変化におけるミツバチの行動変化実験の実験アリーナ映像からの実データ取得(図4)を新システムで行う。現在のシステムで取得できるデータ以外の必要データの検討も行い、その都度、それらのデータを取得するために即座にシステムの改良を行う。システムは必要に応じて、改良を加えていき、個体間相互作用解明のために必要なデータを自動で多くの映像から得ることにより、社会性行動シミュレーションを行うためのモデル構築の支援を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.平成23年度研究費残額が生じた理由 「当初の検討システムでは実データへの適用が困難であることが判明し、システム仕様の再検討・試作および追加実験が生じたこと」、と、オーストリアで1年間、滞在していたために、「予定していた物品が購入できなかったこと、研究補助をしてくれる方を雇えなかったこと」が理由である。2.翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画について設備備品費として、ミツバチの行動解析プログラム開発に必要なコンピュータ・周辺機器の購入を行う。消耗品費としては、研究期間中に最低限必要なミツバチを確保し、研究対象となる映像をコンテンツとして蓄積するための機器、記録メディア代、その他、必要な消耗品の費用を必要としている。国内旅費として、国内学会、研究会での発表ための旅費、参加費、滞在費、と共に、国内で行われる国際会議のための旅費、参加費、滞在費として、使用する予定である。外国旅費としては、国外での学会への参加費、渡航費、滞在費や研究協力者のいるグラーツ大学での打ち合わせを行うための渡航費、滞在費を必要としている。謝金としては、実験・研究の実施にあたって、ミツバチの飼育、データ収集・整理、プログラミングの補助を行ってもらうための方を雇用するために使用する。その他、研究成果を発表するための学会への論文投稿費用や英語校正費用、その他、諸経費に使用する予定である。
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