研究課題
前年度までに、ゼブラフィッシュの視神経損傷後網膜内で、山中因子(klf4,sox2,oct3/4,c-myc)のうちoct3/4を除く3因子が、損傷後3~5日後に網膜神経節細胞(RGCs)で発現上昇することを確認した。このことから、視神経損傷により成熟魚RGCsが幼若化、幹細胞化することが初めて実証され、リプログラミング機構が明らかとなった。そこで、本年度は山中因子の活性化を誘導する上流の因子の探索を行い、白血病阻害因子(LIF)が視神経損傷後2~3日で上昇することを見つけた。更に、幹細胞マーカーであるネスチンが5日で上昇し、いずれもRGCsに限局していた。LIFレセプターの下流シグナルとして知られるJak/Stat3系を調べたところ、確かに損傷後3~5日で発現上昇していることを突き止めた。次に、ゼブラフィッシュ成熟網膜のexplant cultureを実施し、i)LIFの添加実験を行ったところ、明らかに神経突起の伸長が観察できた。逆に、ii)Jak/Stat3の阻害剤の添加を行ったところ、神経突起伸長の抑制が見られた。更にLIFのモルフォリノを注入した網膜では、視神経損傷後Stat3の発現が抑えられること、また、あらかじめこのモルフォリノ処理を行った網膜からの神経突起伸展は明らかに抑制されていることが分かった。以上の結果から、山中因子の上流にLIFがあり、Jak/Stat3系を介して下流分子をリン酸化して、神経細胞の幼若化、幹細胞化→リプログラミングを行っていることが強く示唆された。この事実は、これまでの魚の視神経が何故再生するかという疑問に、初めて一つの解答を与える画期的な結果といえる。
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