研究課題/領域番号 |
23650165
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小松 由紀夫 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (90135343)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 視覚野 / シナプス可塑性 / スケーリング / 眼優位可塑性 / サイトカイン |
研究概要 |
感受性期における片眼遮蔽による眼優位性の遮蔽眼から非遮蔽眼へのシフトは視覚野の経験依存的機能成熟のモデルとして詳しく調べられてきた。この可塑的変化は、視覚野細胞においてHebb型のシナプス可塑性により遮蔽眼の視覚刺激に対する反応が減弱し、非遮蔽眼刺激に対する反応が増強することによると考えられてきた。我々は、T型Ca2+チャネル依存性長期増強(T-LTP)が非遮蔽眼反応の増強を担うことを提唱している。最近、TNF-α欠損マウスで、スケーリングによる興奮性シナプスの強化と非遮蔽眼反応の増強が起こらないことが見出された。本研究は、非遮蔽眼反応の増強が長期増強とスケーリングのどちらの機構によるかを解明することを目指している。 TNF-αがT-LTPに必要かラット視覚野スライス標本を用いて検討した。抗TNF-α抗体を灌流液に加えると、2Hz刺激を15分間与えても長期増強は起こらなかった。また、TNF-αに結合してTNF-αのTNF受容体への結合を阻害するインヒビター存在下でも長期増強の発生は阻害された。2Hz刺激を5分間与えた場合、長期増強はコントロールでは起こらないが、TNF-αを灌流液に加えた場合には起きた。これらの結果は、T-LTPの誘発にTNF-αによる活性化が必要であることを示す。 片眼遮蔽開始後3日で先ず遮蔽眼反応の減弱が起こり、4日以降に非遮蔽眼反応の増強が起こるので、3日と6日間遮蔽したラットから視覚野スライス標本を作製し、両眼視領域の2/3層錐体細胞から記録した微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)を比較することにより片眼遮蔽によりスケーリングが起きるかを明らかに出来る。サンプル数がまだ少なく結論には至っていないが、最終的結論に向けて実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画で最も重要な、TNF-αがT型Ca2+チャネル依存性長期増強の誘発に必要であるかという点には結論が出た。この結果は、T型Ca2+チャネル依存性長期増強が片眼遮蔽による非遮蔽眼反応の増強を担うという我々の考えを強く支持する。2/3層錐体細胞から記録した微小興奮性シナプス後電流の解析はもうすぐ結論に至る段階に来ている。もし、微小興奮性シナプス後電流の振幅に3日間と6日間の片眼遮蔽群で差がないことが明らかになれば、スケーリング説は完全に否定でき、本研究の中心テーマは解決されたことになる。しかし、TNF-αによるT型Ca2+チャネル依存性長期増強の制御の分子機構の解析も計画していたが、TNF-α受容体の下流の信号伝達経路の解析は十分には出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
T型Ca2+チャネル依存性長期増強の制御機構に関するTNF-α受容体の下流の信号伝達経路の解明において、シナプス前部と後部のどちらにTNF-αが作用するかを明らかにすることが重要である。23年度の研究で、この長期増強の発生にはシナプス後部から前部への逆向性の信号伝達が必要であることが分かり、その信号を担う可能性の高い候補分子が分かった。この知見を利用することにより、TNF-α受容体の下流の分子機構の解析を効率的に行えるので、TNF-α受容体の下流で信号伝達を担う可能性が考えられている、PI3 キナーゼ、p38 MAP キナーゼ、NF-κBの関与について24年度の早い時期に解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
薬品、実験動物等の物品費と実験補助の謝金に使用する。
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