研究課題
ヒトでは視細胞変性を示す遺伝病が知られている。ヒトゲノムの解読によって、それらの責任遺伝子が明らかにされてきたが、これらの遺伝子の機能解明は視細胞変性へ至る病態を理解する上で重要である。また、多くのケースで、視細胞変性と蛋白質の輸送異常との関連が示唆されているが、その背景にあるメカニズムも不明である。本研究では、細胞内の蛋白輸送を制御する小胞輸送に着目し、その破綻と視細胞変性の関係について研究した。我々はゼブラフィッシュβ-SNAP突然変異体では、視細胞が変性することを見出した。β-SNAPは、輸送小胞が標的となる膜に融合する過程を制御する蛋白質である。輸送小胞と標的膜には、それぞれv-SNARE, t-SNAREと呼ばれる蛋白質が存在し、それらが相互作用することで、融合が開始される。膜の融合後、v-SNARE-t-SNARE複合体(cis-SNARE複合体と呼ばれる)が形成されるが、β-SNAPはcis-SNARE複合体に結合し、その解離を促進することで、v-SNARE、 t-SNAREのリサイクルを促進する。我々は、β-SNAP突然変異体ではアポトーシスを介して視細胞変性がおこること、さらにBH3-only蛋白質であるBNip1がアポトーシスを誘導することを発見した。BNip1はsyntaxin18 SNARE複合体の要素であり、β-SNAPの活性低下により、syntaxin18 cis-SNARE複合体が蓄積し、BNip1を介した細胞死経路が活性化する。cis-SNARE複合体は通常、β-SNAPにより速やかに解離されるので、syntaxin18 cis-SNARE複合体は小胞融合の異常を示す警報装置の役割を担っている。この研究成果は、小胞輸送の破綻を細胞死へ変換する新たな仕組みを示すものであり、将来、ヒトの遺伝性網膜疾患の病態理解へ貢献することが期待される。
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Developmental Cell
巻: 25 ページ: 374-387
10.1016/j.devcel.2013.04.015
http://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/10744