研究課題/領域番号 |
23650176
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 孝彦 京都大学, ウイルス研究所, 研究員 (40313093)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 狂犬病ウイルス |
研究概要 |
ニューロン間の複雑なネットワークを明らかにするための手段としては「経シナプストレーサー」を用いる方法が最もシンプルかつ簡便であると考えられる。従来から用いられているトレーサー遺伝子として、小麦麦芽レクチンや破傷風毒素Cフラグメントの遺伝子がある。これらは特定のニューロンや特定の神経領域特異的なプロモーターと組み合わせて利用できるという長所を持つが、シナプスを介した伝播効率は非常に低い。一方、狂犬病ウイルスやヘルペスウイルスを利用した組換えウイルスベクターは、高感度で神経回路網を明らかにするためのツールとして注目されている。しかしながら、神経組織へのウイルス注射という操作が伴うため、目的のニューロンのみにウイルスを感染させることが困難であるという弱点を持つ。また、毒性を弱めた変異株をベースにした組換えウイルスが用いられているとはいえ、安全性には十分な注意を払う必要がある。そこで本研究では、マウス遺伝学との組み合わせが可能であるという既存の経シナプストレーサー遺伝子の長所と、効率よくシナプスを介して伝播するという狂犬病ウイルスやヘルペスウイルス等の神経ウイルスの長所を組み合わせ、新規の神経回路トレーサー遺伝子の創製を計画した。 初年度にあたる平成23年度は、狂犬病ウイルスを始めとするシナプスを介してニューロン間を伝搬する性質を示す幾つかのウイルスの遺伝子を入手した。これらを基にしてウイルスのエンベロープ蛋白質遺伝子をPCR法によって増幅し、レポーター遺伝子との融合蛋白質を作製した。これらを網膜の視細胞特異的プロモーター、双極細胞特異的プロモーター、およびアマクリン細胞特異的プロモーターにつないだコンストラクトを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、入手困難なウイルスを含む様々なウイルスの遺伝子を、企業のDNA受託全合成サービスを利用して作製していく予定であった。しかし、実際の研究費の交付額が希望額よりも少なかったため、比較的高価なDNAの受託全合成サービスを全面的に利用する計画の変更を迫られた。ウイルスDNAを研究者から入手し、それを鋳型にしてPCR法で増幅する事で、ある程度の目的を達する事は出来たが、当初の予想以上に時間を要してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は、前年度に作製したDNAコンストラクトをマウス網膜に導入し、融合蛋白質が「経シナプストレーサー」として機能するか否かを詳細に検討する。具体的には、生後間もないマウスの網膜にin vivoエレクトロポレーション法で導入し、細胞分化が完了する生後2週間目以降に網膜を摘出して組織切片を解析する。効率よくニューロン間を伝播する融合蛋白質が見つかれば、ウイルスのエンベロープ蛋白質の様々な欠失変異体とレポーター遺伝子との融合蛋白質を作製し、ニューロン間の輸送に必要な最小ドメインを決定する。また、マウス胎児の脳にもin vivoエレクトロポレーション法で作製したDNAコンストラクトを導入し、脳においても経シナプストレーサーとして機能するか否かを検討する。 それと並行して、当初の計画では候補に含めていなかったGroup Vに属するネガティブ一本鎖RNAウイルスの幾つかについて、エンベロープの遺伝子の単離あるいは人工遺伝子合成を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、マウスの購入・維持費、ならびに、免疫組織染色用の抗体の購入用に主に研究費を使う予定である。また、金銭的に発注可能な範囲で、入手困難なウイルスのエンベロープ遺伝子の全合成を企業に依頼する計画である。
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