研究課題/領域番号 |
23650180
|
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
田渕 克彦 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 准教授 (20546767)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2012-03-31
|
キーワード | シナプス / 子宮内エレクトロポレーション法 / SDS-FRL法 |
研究概要 |
凍結割断レプリカ免疫電顕法(SDS-FRL法)は、膜タンパク質のシナプス膜表面での動態を解析するための極めて有効な手法であるが、遺伝子導入法と組み合わせて導入遺伝子の効果を検証するための技術は確立されていなかった。この技術を開発するために、我々は子宮内エレクトロポレーション法を用いて、マウスの大脳皮質II/III層の錐体神経細胞に膜融合型GFP発現コンストラクトを導入し、導入細胞のシナプスからのGFPの検出を試みた。様々な膜融合型GFPコンストラクトについてGFPシグナルがシナプスに効率よく移行するものを共焦点蛍光顕微鏡下でスクリーニングしたところ、VGlut1, VGlut2, VAMP2などのコンストラクトで、シナプス領域に強いシグナルが得られた。これらシグナルを指標とし、GFP発現が見られる脳の組織片を切りだし、高圧下で急速凍結・割断し、カーボン蒸着、SDS処理により細胞質成分を除去し、SDS-FRLサンプルを作成した。レプリカサンプル上でGFPのシグナルを検出する方法の開発として、SDSによって変性しているGFPタンパク質のリフォールディングを試みた。このために、ポリエチレングリコールとレチナールを含む溶液でSDSを含むレプリカ標本溶液を段階的に置換した。これを蛍光顕微鏡下で観察し、レプリカサンプル上でGFPのシグナルの検出に成功した。次にGFP抗体によりレプリカ標本の免疫染色を行い、透過型電子顕微鏡下でシナプス膜表面で導入遺伝子のシグナルの検出に成功した。子宮内エレクトロポレーション法は、複数の遺伝子コンストラクトを同時に導入できるため、今回の研究が成功したことにより、膜融合型GFPを遺伝子導入細胞の指標として、任意の遺伝子コンストラクトの、膜タンパク質の動態に与える作用を解析する技術が確立されたことになり、シナプス研究の進歩に飛躍的な影響をもたらすと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由)当初の計画では、子宮内エレクトロポレーション法によって導入した膜融合型GFPのシグナルを、免疫電顕法によりSDS-FRLサンプル上で検出することを中心に据えていたが、本研究ではこれに加え、SDS-FRLサンプル上でGFPをリフォールディングさせることにより、GFPの蛍光シグナルも復活させることに成功したため、当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、特にシナプス後膜肥厚(PSD)局在タンパク質Neuroliginの遺伝子導入細胞での神経伝達物質受容体の動態に与える影響を解析するために用いる予定であったが、マーカーとすべく膜融合GFPのスクリーニングにおいて、シナプス前終末局在性分子との融合GFPコンストラクトで効率よくシグナルが検出できた。Neuroliginはシナプス前終末タンパク質Neurexinとシナプス間隙を隔てて結合し、シナプス成熟を誘導することが知られることから、Neurexinなどのコンストラクトと膜融合型GFPコンストラクトをシナプス前終末に発現させ、シナプス前終末及びそれに接するシナプス後終末の膜タンパク質の動態を解析していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
導入遺伝子コンストラクト作成のための遺伝子工学関連試薬、レプリカ免疫電顕法に関わる試薬、抗体などの消耗品の購入費、マウスの購入費や飼育費、マウスの飼育管理のための研究補助員の給与に当てる。
|