タンパク質アルギニンメチル化酵素であるPRMT8はニューロン特異的に発現するが、脊髄損傷に出現する活性化マイクログリア細胞にも発現する。マイクログリア細胞においてPRMT8は細胞質優位な発現パターンを示し、見かけの分子量が60kDaとニューロンに発現する42kDaよりも高分子側にシフトする。我々はその相違が細胞種における翻訳開始点の違いに由来するものと考え、RNAの5'末端の配列に注目した。PRMT8には3か所の予測翻訳開始コドンが存在する。マイクログリア細胞では最も5'側にある開始コドンが使われると予想し、その開始点からタンパク質を合成するプラスミドを作製しマイクログリア細胞に強制発現させたが、見かけの分子量は42kDaとニューロンに発現するものと同じであった。そこで翻訳開始コドン周囲の配列を考慮に入れ、5'側の非翻訳領域を含むmRNAを合成する発現ベクターを作製し、マイクログリア細胞に発現させた。すると60kDa付近に高分子側にシフトしたタンパク質を確認することができた。このことからPRMT8遺伝子は少なくとも2か所の翻訳開始点からタンパク質合成が起き、マイクログリア細胞特異的に最も5'側に位置する開始コドンが選択されることを明らかにした。さらに高分子側へのシフトにはPRMT8のリン酸化が必須であること、また最も5'側の開始コドンより翻訳されたPRMT8にはN末端にミリストイル基が付加され細胞膜へ移行することを明らかにした。現在、PRMT8の発現をノックダウンしたマイクログリア細胞へのリカバリー実験をおこない、機能回復が起きるかどうかを検討している。さらにマイクログリア細胞において特異的な翻訳開始コドンが選択されるメカニズムを解明する目的で、5'非翻訳領域に結合するトランス因子の検索をおこない、マイクログリア特異的な選択的翻訳開始のメカニズムを解明を試みている。
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