研究課題/領域番号 |
23650189
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
白井 良憲 信州大学, 医学系研究科, 助教 (70342798)
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研究分担者 |
鈴木 龍雄 信州大学, 医学系研究科, 教授 (80162965)
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キーワード | シナプス可塑性 / 局所翻訳 / 核移行 / 遺伝子発現 / 非翻訳領域 / mRNA |
研究概要 |
記憶や学習の基礎となるシナプス可塑性は、刺激を受けたシナプスが特異的に修飾され、長期にわたって持続することが必要であるが、その長期維持・固定の機構は全く明らかになっていない。申請者の研究室で同定された、Postsynaptic denshity近傍に存在するPSD-mRNA群には、核タンパク質をコードするものが存在していた。本研究では、これらが刺激に応じてシナプスにおいて「局所翻訳」され、「シナプスから核へと移行」し、核においてシナプス可塑性に関与する新たな遺伝子の発現誘導を示すことを計画している。これにより、シナプスから核への情報伝達を介した、シナプスの可塑的変化の長期維持・固定メカニズムを明らかにすることを目指している。 前年度、核タンパク質をコードするmRNAのうち、実際にPSD/dendriteに局在するものを探索し、核タンパク質(転写因子)をコードするものの一つに着目した。この転写因子のラット脳での発現をウェスタンブロッティングにより調べたところ、複数のisoform (splicing variant)の発現が示唆された。これらisoformを全てクローニングして確認したところ、新規なものを含む複数のisoformが脳で発現していることが明らかになった。 今年度は、この転写因子mRNAの転写開始部位およびその下流である非翻訳領域(5'UTR)に着目し、転写開始部位の候補(CAGEデータベース)を用いた5'UTRの同定法を開発し、5'UTRを網羅的に調べた。この転写因子には脳において、既知のものに加え新規な5'UTRが複数存在しており、これら5'UTRにはPSD-mRNAに特異的に存在しているものがあった。 この5'UTRはmRNAのPSD/dendriteへの局在や局所翻訳に関与すると考えられ、今後のPSD-mRNAの局在・局所翻訳の研究に活用する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、これまでに申請者の研究室で生化学的・分子生物学的に同定されたPSD-mRNAのうち、核タンパク質をコードするものが、実際にin vivoでPSD/dendriteに局在することを示し、次にこの核タンパク質のシナプスにおける局所翻訳を可視化し、続いてその翻訳産物のシナプスから核への移行を調べ、最後に核へと移行した翻訳産物により発現誘導を受ける遺伝子の同定を行う予定である。 前年度までの研究で、核タンパク質をコードするmRNAが実際にPSD/dendriteに局在することをin situ hybridizationにより示し、そのなかから核タンパク質(転写因子)をコードするものに着目した。この転写因子の脳での発現を調べる過程で、脳において機能未知のものを含む新たな複数のisoformが発現していることが明らかになり、脳において発現するisoformを確定した。 近年、mRNAの非翻訳領域(5'UTRおよび3'UTR)がmRNAの局在・安定性・翻訳調節などに関与することが明らかになってきており、mRNAの5'UTRはPSD-mRNAの局在・局所翻訳の重要な役割を果たしていると考えられる。今年度、この転写因子をコードするゲノムの転写開始領域についてデータベースを利用した転写開始部位の予測とその実験的証明を行い、この転写因子には未知のものを含む複数の転写開始部位があり、それに付随した複数の非翻訳領域(5'UTR)の存在すること、そのうち幾つかはPSD-mRNAにも特異的に存在していることが明らかになった。すなわち、このような5'UTRはPSD-mRNAのPSDへの局在、およびPSD/dendriteにおける局所翻訳に重要な役割を果たしていると考えられ、この発見を活用しながら今後の「局所翻訳」「シナプスから核への移行」「新たな遺伝子発現」の解析を中心とする研究計画を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の研究計画に沿って研究を推進する予定である。 今年度得られた結果より、本研究で注目した核タンパク質(転写因子)はmRNAの5'側に複数の新たな非翻訳領域(5'UTR)を持っていること、すなわちタンパク質コード部分に変化はないものの、異なった5'UTRを持つものが複数存在することが明らかになった。これらのうちいくつかは、PSD-mRNAに特異的に存在することが分かった。このことから、これら5'UTRはPSD-mRNAのPSD/dendriteへの局在シグナルとして機能すること、PSD-mRNAのPSD/dendriteにおける局所翻訳の調節に関わっていることなどが示唆される。この発見を活用し、この核タンパク質(転写因子)の発現ベクター(5'UTR+タンパク質コード部位+3'UTR)を構築し、大脳皮質初代培養細胞に導入し、シナプス刺激によるタンパク質発現の変化(局所翻訳)を可視化することを最重視して研究を推進する。そのうえで翻訳産物の細胞内局在の変化(シナプスから核への移行)を調べる。さらにはこの核タンパク質(転写因子)を培養細胞に過剰発現させ、proteiomicsの手法により、核において新規に発現誘導されるタンパク質の同定を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、主に分子生物学的実験・組織化学・細胞培養に必要な試薬・抗体・siRNAの購入や作製に使用する予定であり、申請した金額を使用する計画である。また、成果の発表と学術上の情報を得るために、国内外の学会や研究会への参加を予定している。論文発表のための論文掲載料・印刷代・英文校正の費用なども必要である。これらについても、申請した金額を使用する計画である。 なお、当初計画していたよりも、試薬などを安価に購入できたこと、新たなisoformや新たな転写開始部位・非翻訳領域(5'UTR)を同定する作業で、データベースを利用した遺伝情報の検索(いわゆるin silico解析)に多く時間を費やしたことなどから、今年度は試薬購入費用が抑えられた。また、今年度予定していた海外学会参加を、次年度に実施するなどの計画変更があったことなどからも、次年度使用額が生じた。
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