研究課題
ミクログリアのサブタイプのうち精神機能調節に関わる細胞を同定する目的の第一段階としてHoxb8遺伝子の発現について調べた。申請者が独自に確立した2種類の性質の異なる株化ミクログリア6-3及びRa2、骨髄細胞に濃度差と時間差の条件を変えてM-CSF、GM-CSF、IL-3など刺激因子を加え、Hoxb8の発現量をRT-PCR法を用いて調べた。その結果、6-3およびRa2にIL-3を加えたサンプルでHoxb8が増加する事が確認できた。骨髄細胞に対してはいずれの刺激もコントロールよりHoxb8の発現量を低下させるが、IL-3を加えると他の刺激より発現量が多い事が確認できた。Hoxb8は脳に広範に分布するが発現量が低く、脳内でHoxb8を発現している細胞の種類を確認するのは困難である。申請者が開発したミクログリア株細胞はHoxb8発現からみると単球より未分化な状態であり、適度なIL-3刺激でミクログリアのHoxb8の発現を増大させうる事がわかった。また骨髄細胞に対しても、IL-3による刺激では他のMCSFやGMCSFといった刺激よりHoxb8を増加させる傾向を示した。以上よりIL-3による支配での分化の段階でHoxb8の発現が強まる可能性が示唆された。したがって、ミクログリアのサブタイプのうちHoxb8を発現し精神機能調節に関わる細胞は脳組織から単離培養できるミクログリアより未分化形質を維持している可能性が考えられる。この結果をもとに2年めはうつ病モデル動物にミクログリアを投与してその効果を調べる実験を行う。この時、1) 注入する細胞を蛍光標識しておき細胞の脳内分布を決定する、2) 蛍光標識されたミクログリアをsingle cell dissection法により単離して遺伝子発現を調べる、3) Arc-dVenusマウスを使って神経活動との相関を調べるといった解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では1年めにin vitro遺伝子発現解析による性質分けと、Hoxb8発現増大させる条件の検討を実施する事としていたが、その内容がほぼ完了した。これにより、2年めに病態モデルマウスに細胞移植して解析する実験が行える。
1年目で同定した細胞分画を情動障害モデルマウスに移植し、行動解析と病理学的解析により評価を行う。1) 同定した精神活動調節に関与する可能性のある候補となったミクログリアサブタイプまたは骨髄細胞分画を濃縮してPKH26などの蛍光色素で染色する2) 情動障害モデル(強制水泳および幼若時アイソレーションによる2種類の鬱病モデルマウス)の血流中、もしくは脳内に移植する3) 移植後、経時的に48時間行動解析を行い、鬱状態の評価を行う4) イミプラミンやフロキセチンなどの抗うつ薬の投与の効果と比較する。
1年めのin vitro培養での実験が予定より効率的に実施できたため、費用を抑制することができた。このため2年めのin vivoモデル動物の実験数を予定より多く確保でき、研究成果としてより正確なものが期待できる。また、分析においても単なる発現解析ではなく、質量イメージング手法なども取り入れて神経とミクログリアの相互作用を検出する試みが可能となる。したがって、2年めの経費はモデル動物数を増やし、新しい実験手法を取り入れる事に充てる。
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