研究課題/領域番号 |
23650202
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 小脳性歩行失調 / 姿勢筋緊張 / 網様体脊髄路 / 機能再建 / 除脳動物 |
研究概要 |
【目的】小脳の損傷における運動障害の特徴の一つは筋緊張の調節機構の破綻に伴う筋緊張の低下とこれに随伴する関節運動の協調障害である.これらの障害が小脳性歩行失調の基盤に存在する.筋緊張の調節機構の神経基盤は,脳幹と脊髄とに存在する.従って,小脳は脳幹から脊髄へ下行する網様体脊髄路系と前庭脊髄路系の活動を調節することにより筋緊張レベルの調節に寄与すると想定される.初年度である平成23年度は,小脳の出力が筋緊張レベルの調節にどの様に寄与するのかを電気生理学的手法を用いて検討した.【方法】実験には,大脳皮質や基底核などを除去した除脳ネコ標本を用いた.この標本を用いることにより,小脳による筋緊張の調節メカニズムを解析することが可能となる.小脳および橋・延髄網様体に微小電気刺激を加え,後肢伸筋ならびに屈筋の単シナプス反射の変化,および,脊髄α運動細胞に誘発されるシナプス電位の変化を解析した.【結果】内側の橋および延髄網様体には両側下肢の伸筋および屈筋の活動を促通する領域と抑制する領域が存在した.ほぼ同等の促通作用と抑制作用を誘発する領域は小脳室頂核付近にも存在することが明らかとなった.さらに,小脳の促通領域と抑制領域に加えた刺激はα運動細胞に,各々,興奮性および抑制性後シナプス電位を誘発した.【考察】本成績は,小脳からの出力が網様体脊髄路と同様に筋緊張レベルの調節に寄与することを示唆する.また,そのこれらの作用が伸筋と屈筋の双方に作用することを考慮すると,小脳の出力は肢関節の主動筋と拮抗筋を同時に制御することにより関節の剛性を調節すると考えられる.従って,小脳損傷に伴う筋緊張レベルの異常は,網様体脊髄路の活動によって代用することが可能であると考えられる.24年度は,網様体脊髄路刺激による筋緊張調節作用を用いて小脳損傷ネコの歩行運動機能が代償できるか否かを検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では小脳性歩行失調の機能再建を試みるための基礎研究である.23年度の研究のポイント次の2点である.第一点は,除脳動物における脳幹ならびに小脳における筋緊張調節野の同定すること,そして,第二点は,筋活動を用いたフィードバック電気刺激法の開発である.第一点のポイントについては,(上記研究成果に示した様に)小脳室頂核およびその近傍に筋緊張の促通領域と抑制領域を,そして,橋および延髄網様体にも筋緊張の促通領域と抑制領域が存在することを明らかにすることができた.これは,小脳の持つ筋緊張調節機構を代償できる神経機構が脳幹網様体に存在することを証明できたことを示しており,研究の第一歩としては非常に価値のある成果である.加えて,運動細胞の細胞内記録により,各々の領域によって誘発される作用が後肢伸筋ならびに屈筋を支配する運動細胞に対する興奮作用ならびに抑制作用であることも証明できたが,これは当初の計画以上の成績である.さらに,本研究のために開発した電気刺激用の微小電極は,頻回の使用に対しても安定した電気刺激特性を発揮することが明らかとなり,筋緊張制御における小脳機能の出力系を構築する上での必要条件を揃えることができた.しかし,第二のポイントである「筋活動を用いたフィードバック電気刺激法の開発」についての進捗は決して十分ではない.電気刺激のためのフィードバック回路は工学的シミュレーション上で作動するが,実際の実験動物にこれを応用できるレベルにまでに達していない.この電気刺激回路の完成には24年度における動物実験での改善と検証が必要となる.上記,予想以上の進展があった点,ならびに,進捗が好ましくない点も存在することを考慮すると,全体的には概ね順調な進捗状況であると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は小脳の部分切除あるいは完全切除を施したネコ歩行標本を作製し,小脳損傷ならびに脳幹への機能的電気刺激法による随意的歩行動作の解析を試みる.以下の2つの研究を遂行する.(1) 小脳損傷ネコにおける自発歩行の解析と脳幹への定常的電気刺激の作用小脳内側部が損傷に伴う歩行性失調では,筋緊張低下に伴う低重心化,重心の動揺,そして関節角度の減少が誘発される.一方,小脳外側部の損傷では,障害物回避などの予測的な動作の巧緻性が損なわれる.そこで,リズミカルな歩行や障害物回避などの動作解析を行い,筋緊張レベル・歩行リズム・姿勢の動揺などを評価する.同様の手法を用いて小脳損傷ネコの脳幹網様体(筋緊張促通野)に定常的な微小電気刺激を加えた際の歩行動作を解析する.この定常的電気刺激法は当初の計画し無かった内容であるが,次に示すフィードバック電気刺激法が確立できなかった場合であっても,この方法が小脳性歩行失調に有効であるか否かを検討することは非常に有用である. (2) 筋活動を用いたフィードバック電気刺激による機能的電気刺激法の確立体幹筋と下肢伸筋の筋電図活動を導出・記録し,これを整流・積分し,筋活動の振幅を刺激強度に反映させるためのデジタル信号を作成する.このデジタル信号を電気刺激として筋緊張促通野へ加えて,real-time筋活動フィードバックに基づく機能刺激法を設計する.(1) と同様の解析手法により,小脳損傷ネコに対する定常的電気刺激の効果とこのフィードバック電気刺激の歩行動作(リズミカルな歩行動作と障害物回避歩行)に対する作用を比較・解析する.特に,歩行の開始や停止,障害物の回避など,随意的な歩行動作の際に最適となる機能的刺激のパラメータをチューニングし,小脳の損傷に基づく随意的な歩行動作の機能回復モデルの確立を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は,実験動物(ネコ)の購入,実験・手術器具,薬品・試薬,記録媒体,電子部品等の消耗品,そして,研究発表(国内)ならびに連携研究者との共同研究のための旅費として使用する予定である.
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