研究課題/領域番号 |
23650202
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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キーワード | 小脳性歩行失調 / 姿勢筋緊張 / 網様体脊髄路 / 機能再建 / 除脳動物 / 機能的電気刺激 / 脳深部刺激法 / ブレインマシンインターフェイス |
研究概要 |
昨年度の研究では,ネコ小脳の筋緊張促通領域の作用と同等の作用を示す領域が脳幹網様体に存在することが明らかとなった.しかし,実験動物としてのネコの供給が不十分なために,ラットを用いた研究を加えることとした.そこで,本年度は,「ネコ小脳の部分的切除に基づく運動機能(筋緊張レベルと歩行動作)を評価する」こと,そして,ラットの急性および慢性実験標本を用いて「小脳には筋緊張レベルを増加あるいは低下させる領域が存在するか否か」を同定すると共に,「小脳を部分的に破壊したラット標本において筋緊張レベルならびに自発的な歩行運動がどの様に変容するのか」の2点の解析を目標として研究を遂行した.麻酔下においてネコの室頂核を含む小脳虫部を除去すると,頭部および体幹を動揺させて歩行する失調性歩行が誘発され,その際,両側の肘関節の股関節・膝関節・踵関節は屈曲位を呈していた.一方,歯状核を含む外側半球を部分的に切除すると,頭部・体幹の動揺性歩行失調は顕著でなかったが,歩行時において同側前肢を不要に大きくスイングさせる現象(尺側異常と同様の運動異常)が誘発された.これは,小脳虫部が,姿勢および筋緊張の維持に関与すること,そして,小脳外側半球が体幹部よりもむしろ肢領域の制御に重要な役割を持つという従来の研究成績を確認したことになる.次いで,ラットにおいて同様の小脳の部分的切除実験を遂行した.ラットにおいても,ネコと同様,小脳虫部の部分切除によって頭部・体幹の動揺性歩行失調が観察され,各肢関節の過屈曲位も観察された.これらの成績は,ネコおよびラットにおいて小脳虫部は筋緊張レベルの維持ならびに頭部・体幹の運動機能に重要な役割を持つと推定できる.今後,脳幹の筋緊張促通領域への電気刺激によって,この運動機能障害がどの程度回復するのかを評価する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は,小脳室頂核およびその近傍に筋緊張の促通領域と抑制領域を,そして,橋および延髄網様体にも筋緊張の促通領域と抑制領域が存在することを証明した.加えて,運動細胞の細胞内記録により,各領域は後肢伸筋ならびに屈筋を支配する運動細胞に興奮および抑制作用を誘発することも証明した.これは当初の計画以上の成績である.平成24年度は,①ネコにおいて小脳の全破壊,ならびに,部分破壊を施し,これに基づく運動機能障害(運動失調)を記録すること,②脳幹網様体において同定した筋緊張制御領域への機能的電気刺激により,その運動機能障害が改善するか否かを評価すること,そして,③筋活動を用いたフィードバック電気刺激法の開発,の3点を研究目標に定めた. しかし,東日本大震災に伴い,実験動物としてのネコの入手が困難となり,ネコでの研究に加えてラットを用いる研究に方向転換せざるを得なくなった.研究成果としては,研究実績の概要に示す通りであり,ネコに加えてラットの小脳運動失調モデルの作成に成功した.しかし,ネコに比べて,ラットでは小脳の各領域を正確に部分破壊することが困難であり,制度の高い部分破壊法の開発が必要である.一方,ラットにおける脳幹網様体への機能的電気刺激の研究は,再現性を持って小脳性歩行失調を十分に改善させるレベルには至っていない.従って,より多くの実験数と正確な刺激部位の同定,そして,ラット用の刺激電極の開発が必要となる.実験動物の変更を余儀なくされるという状況において,ラット小脳性運動失調モデル動物が開発できた点は,十分に評価できる.しかしながら,脳幹への機能的電気刺激による歩行失調の改善効果の評価,ならびに,新たな機能的電気刺激法(フィードバック電気刺激法)の開発に至っていない点は,本研究課題が当初の計画を遂行できていないことを示しており,研究はやや遅れていると評価せざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,当初2年間で終了する予定であったが,研究達成度の項目に示した様に,研究進捗が不十分であると判断した,そこで,日本学術振興会に,補助事業期間延長承認を得て,平成25年度も,本研究を遂行することとした.研究改善点は以下の3点である. 第一点は,小脳障害モデルラットにおける脳幹網様体刺激の効果を評価することである.具体的には,小脳障害における,①筋緊張レベルの低下,②平衡機能の低下と眼振,そして,③歩行動作の異常,が脳幹網様体刺激によって,どの様に変化するのかを,動力学的データと動作解析によって評価する. 第二点は,脳幹網様体への電気刺激パラメータの評価である.多くの脳幹網様体の神経細胞活動は,5-30Hz程度であり,発射頻度が高い場合でも100Hz程度であることが知られている.故に,20-100Hzでの頻度で与えた電気刺激は,網様体細胞の活動を亢進させるが,100Hz以上の頻度での電気刺激の場合,網様体細胞の活動は抑制されると想定される.上記の運動機能の変化がどの範囲の周波数の刺激頻度で誘発されるのかを定量的に評価する必要がある. 第三点は,脳幹網様体への電気刺激の与え方である.パーキンソン病など大脳基底核疾患における脳深部刺激の場合は,一定の周波数の電気刺激を持続的に与えている.しかし,小脳の活動は,運動感覚フィードバックを強く反映するため,小脳から脳幹網様体への作用を電気刺激で近似するためには,運動感覚フィードバックを近似した電気刺激が理想的であると考えられる.そこで,脳幹網様体への持続的な電気刺激法と運動感覚に基づくフィードバック刺激との作用の違いを評価することが重要である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に使用できる研究費は約20万円である.研究の遂行に必要な備品や消耗品については,既に24年度までの間に購入済であるので,研究費は,実験動物の購入とその管理費用に充てる.
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