本研究では、生きた動物個体の脳において、任意の神経細胞に光を用いて自由に遺伝子導入できる技術を開発する事を目的としている。フェムト秒パルスレーザーを用いて細胞膜の光穿孔を行うことで、広い範囲(500ミクロン四方)に分布する多数(100個程度)のニューロン一つ一つに独立に外来遺伝子を導入することを可能にする。従来の単一細胞電気穿孔法と異なり、遺伝子を導入するために電極を接触させる必要がないため、侵襲性も少なく、極めて自由度の高い方法となり得る。開発した技術を用いることで、2光子イメージングにて活動を記録した複数のニューロンに選択的に外来遺伝子を導入して、その活動を制御することが可能となる。 昨年度までに、レーザーを用いて外来分子をニューロンに導入できるかどうかの確認を行い、蛍光分子を脳スライス標本および個体脳において光照射したニューロンに選択的に蛍光分子が取り込まれることを確認していたが、今年度は、DNAプラスミドの導入を試みた。光照射によるダメージを蛍光デキストランによって確認したところ、ニューロンの形態に異常は見られず、光照射によるダメージによるニューロンの細胞死などは起こらないことを確認したが、DNAプラスミドの導入では、24~48時間後では発現を確認できなかった。原因としてDNAプラスミド溶液の濃度、光照射の条件などが考えられるため、これらの条件を最適化する必要があるとともに、用いるプロモーターや手術法を改良することで、外来遺伝子の導入効率を上げることが可能であると考えられる。
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