研究課題/領域番号 |
23650208
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
加藤 総夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20169519)
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キーワード | 神経科学 / 脳 / コネクトミクス / アデノ随伴ウィルス / シナプス伝達 / チャネルロドプシン / 光遺伝学 |
研究概要 |
光遺伝学を基盤とした機能コネクトミクスの確立を目的として研究を進めた。本手法の最も重要な要素は、シナプス前終末にチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、投射元ニューロンから遠く離れた部位でその終末を活性化して特定の部位に由来する入力を選択的に活性化する技術である。この2年間の研究技術の進歩によってこの技術そのものは別段「挑戦的」ではなくなりつつある。また、ChR2そのものにも多くの分子修飾が加えられて高光感受性・高電流・低脱感作の特性を持つものが開発されてきた。さらに、脳内の発現手法として、当初、導入が困難と考えられていたAAVベクターの開発が進み、さまざまなセロタイプの応用とともに、その効率がこの2年間で飛躍的に向上した。 そこで本年度は、安定したAAVベクターを用いたChR2発現と発現・投射部位確定の手法開発に多くの時間を割いた。AAV2,5,9のうち、領域限局性が高いとされるAAV2ベクターでCAGプロモーター下にChR2を発現するベクターを麻酔下ラット腕傍核に導入した。この時、脊髄後角浅層および三叉神経脊髄路核尾側部からの投射を受けている領域にChR2発現が生じることを確認するため、融合タンパクChR2-YFPを発現するベクターを用い、さらに、逆行性蛍光トレーサー・ビーズを同時に脳内注入した。4~6週間後に脳スライスを作成し、光刺激を行った。AAV2は組織限局性が高い反面、導入される細胞数が少ないという欠点を持つことが明らかになった、これらの目的のため、(1)効率的かつ安定した脳固定下ウィルス微量注入システムの開発、(3)高効率LED照射システムの開発、および、(4)発現と輸送時間の経過に伴い成熟する動物の「生きの良い」新規スライス標本の作製法の開発を進め、ほぼ完成を見た。現在、使用するAAVウィルスの種類とCAG以外のプロモーターについてさらに最適化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は多くの研究室で用いることのできる技術の開発と確立である。P1レベルで使用可能なAAVウィルスベクターの使用を試みたが、所属機関の独自の規制により、P2レベルの設備を整える必要があり、これに時間がかかり進捗が遅れた。欧米亜の研究機関では、AAVウィルスをP1クラスの設備で用いて軽いフットワークでどんどん研究成果を上げ始めており、さらに国際的競争力を向上させていくためには、合理的な規制の緩和と全国における統一化の推進が望まれる。 この1~2年の国際的な研究によって、AAVウィルスによる脳内遺伝子導入は、AAVウィルスの種類やタンパク発現のプロモーターの種類などで大きく左右されることが知られるようになっている。そのために多種のAAVベクターの導入を試みたが、その比較と選定、発注業務などに予想外に時間がかかった。その一方で、導入方法、導入部位への投射の確認方法、高週齢動物からのシナプス伝達記録に必要となる生きのよい脳スライスの作成手技の開発などはほぼ完成し、十分な体制が整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
AAV2/5/9のセロタイプの導入とSynapsinプロモーター下、ChR2の高光感受性・高電流変異体ChR2(H134)の導入を行い、(1)導入ニューロン数、(2)軸索染色数、(3)光刺激によるシナプス伝達活性化効率、を最適化し、腕傍核へのベクター導入実験を進める。逆行性トレーサーの同時標識により、三叉神経脊髄路核からの投射を確認する。一方、中脳水道周囲灰白質PAGもしくは、青斑核LCに逆行性トレーサーを導入し、扁桃体中心核外側外包核にウィルス導入を行う。これらの両域に投射している扁桃体中心核内側核ニューロンから記録を行い、シナプス伝達の特性を検証する。結果に基づき、ある部位からの投射を受け、ある部位へ投射するニューロンからのシナプス伝達様式の詳細な解析を行い、本手法を完成させるとともに、手法について国際的に公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
技術はほぼ確立したので、今年度はウィルスベクターの購入費、蛍光試薬の購入費、ウィルス注入用消耗品購入費、動物購入費、および、成果公表関連経費に充てる。
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