研究課題
本研究の目的は、心不全モデル動物に、独自の方法(心臓microdialysis法、心電図テレメトリー計測法、放射光心・血管運動機能計測法など)を応用することで、不整脈・突然死や心臓収縮・拡張不全などの致死性病態の発生と中枢神経を介した心臓自律神経活動制御の関係を多角的に解析し、病態の神経性機序の解明及び中枢神経作用薬の評価・開発することである。平成23年度は、主に以下の研究を進めた。1)マウス心不全モデルおいて心臓副交感神経の役割を解明する目的で、心臓microdialysis法によるマウス心臓副交感神経活動の評価法を初めて開発した。麻酔下マウス左心室にdialysis probeを埋め込み、エゼリンを含むリンゲル液で10分間灌流、10分間で20マイクロリーターの灌流液を回収し、HPLCでアセチルコリンの濃度を計測した。頚部迷走神経の電気刺激に対し、正比例型の刺激-応答曲線が得られ、病態モデルへの応用が可能となった。2)高脂肪食で心筋梗塞を発症するSR-B1 KO/ApoeR61h/hマウスに対し、心筋梗塞発症と冠動脈血管機能障害の関係を、放射光冠細動脈造影を用いて、評価した。冠細動脈の一酸化窒素及びEDRF放出能低下とβアドレナリン受容体機能低下が見出された。3)グレリンは急性心筋梗塞で、心臓交感神経活動の低下及び副交感神経活動の増大作用を介し、致死性不整脈とリモデリングを抑制することが判明している。そこで、拡張型心筋症モデルマウスでの効果を調べた。その結果、生後2ヶ月での生存率が50%から95%に大幅改善した。また、心電図テレメトリー計測によるRRインタバルのリアルタイム周波数解析で、グレリンによる心臓交感神経活動の低下が示唆された。以上より、グレリンの慢性心不全に対する有効性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した1)microdialysis法のin vivoマウス心臓への応用、2)覚醒マウスでの心電図テレメトリー計測、3)放射光心血管機能画像解析、4)in vitroでの病態解析に関し、1)、2)、3)については、方法の開発・確立、さらには、心臓自律神経活動と心不全進行の関係解析まで研究が順調に進んだ。しかし、4)については予定通りには進んでいない。心臓の標本は保持しているので、24年度に進める予定である。全体的には、心不全の神経性病態解明と中枢神経標的の心不全治療薬開発に向けて、研究は順調に進んでいる。
平成24年度は、23年度に確立した方法を病態モデルに応用してデータ取得し、得られた知見を統合して研究目的を達成する。病態モデルとして、我々が開発した拡張型心筋症モデルマウスを研究の中心とする。このマウスの心不全進行における、心臓交感・副交感神経活動の役割を、麻酔下ではmicrodialysis法で、無麻酔下では心電図テレメトリー計測法による解析で解明する。さらに、23年度に発見したグレリンのこのマウスに対する延命効果が、心臓自律神経活動の変化とどのように関係するのかを解明する。同時に心臓リモデリングの進行度合いについても病理的及び生化学的に調べる。
次年度の主な研究費使用対象は以下の項目である。1)心電図テレメトリー送信器の再生、2)スプリング8での実験旅費、3)グレリンなど薬品、4)in vitro研究での消耗品テレメトリー送信器再生とグレリンは高価であるので、他の項目とバランスをとりながら慎重に研究費を使いたい。
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