研究課題
本研究の目的は、MEG-NIRS同時計測システムを用いて、MEGで計測される脳神経活動シグナルの時系列パターンがNIRSで計測される脳血流動態シグナルの時系列パターン、および、空間的活動パターンにどのように反映されるか、を解明することである。 この遂行に伴い、いくつかの問題が生じた。まず、同時計測系の確立に関して、予備実験で良好な成績を示していた聴覚課題の安定性がよくないということが判明した。このため、感覚系の課題を模索したが、正中神経の電気刺激では信号源が比較的深く、NIRSとの同時計測に不向きであった。このため、口腔感覚の電気刺激の導入を考慮した。しかし、刺激強度を上げる内に、筋電の混入によるアーチファクトが発生した。この解決のために、筋電の発生源にあらかじめ双極子を推定し、筋電由来のアーチファクトを取り除くという新手法を考案した。これまでMEGでは、顔面近傍の電気刺激はアーチファクトを伴いやすいという問題があったが、この有力な解決策を提案するに至った。一方、同時刺激課題の設定については、感覚系も安定性に欠く可能性が強く、運動系へのシフトを検討中である。 次に、同時計測で得られたNIRS信号の解析方法にも課題が生じた。従来fMRIでは、単一の血流動態関数を仮定し、それを経験的に計測信号に一般線形モデル(GLM)を用いて当てはめるという手法が取られてきたが、NIRS信号においては、酸素化、脱酸素化ヘモグロビン、それぞれの信号挙動は明らかに異なる。また、課題によっても、その挙動は異なっており、単一のモデルによる適合は適切ではない。このため、モデルの変数を動的に変更させる動的GLMという手法の新たに開発した。 このように、当初の予定よりは困難な課題であることが判明したが、問題解決の中で、予期せぬ成果が頻出するという想定外の良循環が展開しつつある。
2: おおむね順調に進展している
現状では本プロジェクトのために準備したMEG-NIRS同時計測系の活用がなされていない状態であるが、次々に生じる問題を解決する過程で、当初予想しなかった重要な成果が次々に生れつつある。総合的に考えると、進行状況は概ね順調と言える。
本課題の遂行は、当初の推定よりも挑戦的であることが判明しつつあるが、問題解決の過程においても、当初は想定していなかった成果が生じつつあるため、重要課題を丁寧に解決していくという基本姿勢は維持すべきと考える。この上で、いくつかの方針変更を考慮する。まず、同時計測の刺激としては、当初予定していた聴覚系ではなく、感覚運動系を導入する。前年度の開発によって、運動アーチファクトの混入は問題にならないという条件が整った。このため、筋電を伴う高強度の感覚刺激の導入を試みる。また、予備的に、運動課題の導入も試みる。一方、NIRS信号の解析については、現在は、主として反応遅延を司る時間定数を変動させているが、矩形関数を変動させるといった新たな試みも取り入れていく。また、研究期間途中に、施設の改修が生じたため、3ヶ月程度、MEG実験が不能となる期間が生じるが、この期間中に解析と成果とりまとめを集中させる、あるいは、重要な計測の必要性が生じた場合は、NIRS-EEGの同時計測系によって、代替的な計測を実施する等の工夫を行う。
初年度に想定外の課題が次々と生じたため、次年度の研究展開に様々な可能性が生じており、その準備のために、予算執行を最小限に抑えている。現状では、運動系の光学的検出システム工作費用、MEG用の信号源解析ソフトの拡充が必要となっている。そのほか、計算負荷によっては、ワークステーションの拡充を計画している。また、生体計測の本格化に伴って、実験従事者の謝金、被験者謝金、MEG使用料が発生する。そのほか、実験関連消耗品、取得データの保存メディアや解析に用いるコンピューター関連機材の購入を行う。また、国際学会への参加を一件、予定しており、その出張費用が必要である。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Neuroscience Research
巻: 72 ページ: 163-171
10.1016/j.neures.2011.10.008
Brain and Language
巻: 121 ページ: 185-193
10.1016/j.bandl.2012.02.001