研究課題
初年度である平成23年度は、課題による自律神経活動が引き起こす皮膚血流の時空間分布の計測を目的とし、多チャンネルの接触型Dopplerレーザ組織血流計(Doppler血流計)を用いて多点同時計測を行うことを計画した。しかし、実際の交付額が多チャンネルDoppler血流計を購入できる額ではなかったため、大学のMRIを用いて、課題中の皮膚血流の時空間分布の計測という目的の達成を試みることにした。平成23年7月に順天堂大学医学部から大阪大学大学院生命機能研究科に転任したが、順天堂大学在任中に3名の健常被験者に対し予備的なMRIによる計測実験を行い、撮影法を工夫してspin-echo型EPI法を用いることにより、明瞭とは言えないまでも皮膚血液動態を反映するとみなせる結果を得た。大阪大学に着任してからは付属病院のMRIを倫理審査等の手続きを経て使用可能になったのが年度末であったが、さらに精密な計測方法を計画し実施を始めた。単チャンネルのDoppler血流計(所属研究室の備品)をMRIで使用可能にするための専用プローブを新たに購入し、被験者の頭皮血流とMRI信号との同時計測をできる環境を整えた。またMRIによる頭皮血液動態をEPI法により撮影する際には、生体組織と空気との境界の磁化率変化により大きな歪みノイズが画質の著しい劣化を引き起こすという問題があるが、フロリナートを頭皮に(容器を介して)密着させる方法を用いることで、大幅な改善が図れることを見出した(被験者1名)。大阪大学に着任してから上記のMRI計測実験の準備が開始できるまでの期間は、次年度に予定していた「皮膚の血液動態モデルの構築」の一部を前倒して着手した。具体的には、光伝播モンテカルロシミュレーションのための並列計算シミュレータの使用環境を整えるとともに、脳血液動態モデルの先行研究を頭皮血管に適用したモデルを構築中である。
3: やや遅れている
当初、多チャンネルの接触型Dopplerレーザ組織血流計を用いて頭皮血流分布の多点同時計測を行うことを計画したが、交付額が同装置を購入できる額ではなかった。そのため、代替手段として大学病院のMRI装置を用いて研究目標を達成することにしたが、年度途中で研究機関を異動となり、着任地でMRI装置が使用可能になるまでの手続きに時間がかかった。このことが、やや遅延の理由である。
頭皮血液動態の時空間分布をMRIで広範に調べる手法は確立されていない。まずはこれに取り組みたい。具体的には、磁化率アーティファクトを如何に回避するかが根本的な課題である。この解決のために(1)spin-echo型EPIのパラメータ調整、(2)フロリナートの装着法、(3)位相イメージによる歪みノイズの評価を行う。また、MRIを使用するので課題中の脳活動の同時評価が可能となる。その際、SpO2モニタによる指尖脈波とDoppler皮膚血流計による(1点の)頭皮血流とをMRI信号と同時計測する。これにより、今後並行して開発予定となっている皮膚血流除去法の精密な評価を行っていく。また、当初の計画どおり、「自律神経活動にともなう皮膚血流由来のNIRS信号成分の脈波成分からの推定」をNIRS信号自体に含まれる脈波成分を利用することで行う。さらに、頭皮の血液動態の生理学的知見はいまだ乏しいため、光伝播モンテカルロシミュレーションを用いて「皮膚の血液動態モデルの構築」を行ない、NIRS信号とそれに含まれる脈波成分との関係を定量的に扱う方法を探る。
多チャンネルのDoppler皮膚血流計の代わりにMRIを用いることにしたため、MRI実験に係る物品費が必要となる。視覚および聴覚的に課題刺激をMRI用のデバイスを介して提示するため、また脈波などの種々の信号を計測するためのコンピュータ(30万円 x 2台)およびソフトウェア(10万円)が必要になる。また被験者謝金(5千円/回 x 30名)に加えMRI操作の技師の謝金(2万5千円/回 x 6回)が必要となる。
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