研究課題/領域番号 |
23650221
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
樋口 正法 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (50288271)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 磁性 / 超伝導材料・素子 / 脳・神経 |
研究概要 |
本研究は超低磁場機能的核磁気共鳴装置の実現化を目指し、課題とその解決方法について検討することを目的としている。課題としては超低磁場化に伴う核磁気共鳴信号の低周波化の問題があり、その解決方法として静磁場反転によるスピンエコー法において静磁場強度が異なる非対称スピンエコー法を考案した。平成23年度は本手法の原理確認のため核磁気共鳴実験システムを構築し、各種基礎データの収集および検討を行った。実験システム構築おいては、信号検出センサとして多重コイルを用い、そのためのコイルボビンや電気・電子回路の設計・製作を行った。これは核磁化コイルを兼ねており、その切り替えにリレーを用いている。核磁気共鳴信号(FID)の大きさはこの切り替え速度に依存するため、その高速化のための回路について検討を行った。また、静磁場制御はヘルムホルツコイルを用いて行うこととし、そのためのコイルホルダーや制御回路の設計・製作を行った。このときの制御回路は先に述べた非対称スピンエコーを実現するためのもので、リレーと電流制御素子を用いて大きさと流れる向きが異なる電流を流すことができるようにした。最初は地磁気を用いて実験を行った。非対称スピンエコー法の第一磁場はヘルムホルツコイル磁場との合成磁場で、地磁気より磁場強度が小さくなるように制御、第二磁場はヘルムホルツコイル磁場をオフにして地磁気のみとした。実験の結果、磁場の不均一性が原因と思われる核磁気共鳴信号の減衰のため波形レベルでの観測は困難であったが、スペクトル解析による結果ではエコーの出現を確認するこができた。研究成果の一部は国内および国際学会において発表を行った。本研究と同じ目的で超低磁場核磁気共鳴装置による脳機能情報取得の試みは世界でも行われており関心は高い。なお、現在のところまだ成功の報告はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究実施に先立ち、超低磁場化に伴う核磁気共鳴信号の低周波化の問題を解決する方法として信号検出時に核磁気共鳴信号を高周波化するための静磁場制御シーケンスを考案した(特許第4803768号)。本年度は、この手法を実験的に検証するための核磁気共鳴実験システムを構築し、基本データを収集することが目標であった。先の研究業績の概要で述べたように、信号検出センサ(多重巻コイル)や電気・電子回路、静磁場制御用ヘルムホルツコイルなどを設計・試作し、システム構築を行った。またこれを用いて非対称スピンエコー法の原理実験を行うことができた。成果の一部は学会等で発表を行い、他の研究者からの評価も良好であった。年度後半においてはシステムの改良・高度化を進め、核磁気共鳴信号のSN比向上や静磁場制御シーケンスの自動化が可能となった。それまで静磁場として地磁気を用いていたため野外で実験を行わなければならなかったが、磁気シールドルーム内でヘルムホルツコイルのみを用いて静磁場を生成する方式でも明瞭に核磁気共鳴信号を検出することができるようになった。これにより机上では知ることができなかった核磁気共鳴現象の挙動がいくつか明らかになり、今後の研究開発に不可欠なデータやノウハウが得られた。以上のような実施状況により、本年度はおおむね順調に進展したものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度構築した核磁気共鳴実験システムを用いてより定量的に静磁場制御シーケンスの評価を行う。特に内部磁場によるエコー信号の影響については、本年度定性的にしか検討することができなかったため、次年度では重点的に評価したいと考えている。静磁場制御シーケンスの評価とは別に、机上では知ることができない低磁場における核磁気共鳴現象の挙動を調べ、実用システム構築の際に必要な基本データの収集を行う。例えば、磁気シールドの壁面による渦電流や電磁ノイズなど核磁気共鳴現象に与える影響など本研究の目的とは別であるが、これらのデータは将来実用システムを構築する際には非常に重要になるものと思われる。最終的には信号検出センサとしてSQUID磁束計を用いることを想定しているが、外部磁気ノイズの影響や磁束トラップの問題など核磁気共鳴現象とは別のSQUID磁束計固有の問題が発生することが予測される。したがって、やみくもにSQUID磁束計を導入するのではなく、本年度構築した実験システムを用いて核磁気共鳴現象に関する諸性質を予め十分に把握することが効率的であると思われる。よって、次年度の最終目標はSQUID磁束計を用いた評価ではあるが、本年度構築した実験システムによる原理実験を第一優先事項とし、その進捗状況によりSQUID磁束計による実験に移行する予定である。これらの実験や解析によって得られた研究成果は国内外の学会やホームページ等で報告を予定している。また、今後の研究展開として人の脳を計測するための実証システムの開発を目指し、得られた知見をもとに必要研究課題の整理・検討を行い次なる研究ステージの準備をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度少し残った研究費と合わせて実験システムの改良および追加に50万円使用する予定である。内訳は静磁場発生コイルの改良、核磁化コイルボビンの追加、電気・電子回路の試作、および制御・解析用計算機装置の導入などである。さらに年度後半ではSQUID磁束計による実験を行う予定であり、SQUIDセンサ冷却用の液体ヘリウム100L分約20万円、SQUID磁束計導入のための実験システムの改造の部材費や電気・電子回路試作費等で20万円の使用を予定している。次年度は最終年度であるため、研究成果の発表を積極的に行いたいと考えており、国際学会(フランス:Biomag2012)や国内学会での発表のための旅費として50万円の使用を予定している。
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