研究概要 |
小児期の虐待・ネグレクトによって引き起こされる愛着障害(反応性アタッチメント障害)の神経基盤を明らかにするために、福井大学と理化学研究所、あいち小児保健医療総合センター、生理学研究所の共同研究グループは、愛着障害児と健常対照児を対象に、金銭報酬が得られる認知課題施行時の脳内報酬系の神経賦活度をfMRIを用いて測定した。 対象は虐待・ネグレクトを過去に受けた愛着障害(反応性アタッチメント障害, DSM-IV-TR 313.89)患児である。10~16歳の健常児17名(13.0 ± 1.9歳)と愛着障害患児6名(12.5 ± 1.9歳)、および未治療のADHD患児17名(13.3 ± 2.2歳)を対象に金銭報酬を伴うカードめくりテストを行い、報酬系の刺激で活性化する脳部位を機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging, fMRI)で特定した。ADHD患児においては、健常児との比較から、高金額の報酬が期待できる時は、両者で同程度の腹側線条体の側坐核と視床の活性化が見られた。一方、低金額の報酬ではADHD患児における側坐核と視床の活性化は健常児に比べて低いことがわかった。 しかしながら、愛着障害患児では、健常児との比較から、報酬金額の高低にかかわらず背側線条体と視床の活性化が健常児に比べて低いことが明らかとなった。以上より、愛着障害患児では黒質線条体経路のドーパミン機能低下が示唆された。 今回の成果は、fMRIを用いた脳機能診断が愛着障害やADHDの客観的な病態評価に有用であり、治療法の開発に貢献することが期待できる。
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