本研究は、社会的相互作用と相関する2頭のサルの脳間ネットワークを抽出することを目的としていた。そのために本研究は以下の3つの要素手法の確立に成功した。 1.2頭のサルからElectrocorticogram (ECoG)を同時計測するシステム:まず社会的相互作用を行っているときの2頭のサルから、ECoGを同時計測するシステムを確立した。しかし、2頭のサルの脳間ネットワークを計算する前段階として、1頭のサルの脳内ネットワークの計算手法、及び、社会的相互作用という複雑な課題下におけるサルの脳内表象を抽出する手法を確立する必要性があることに気づき、以下、2つの研究を行った。 2.脳内ネットワークの抽出手法:課題を簡単にするために、覚醒及び麻酔下におけるサルの脳からECoGを記録し、覚醒及び麻酔下の脳内ネットワークの抽出を行った。電極間の相互作用をSpectral Granger causalityにより推定し、デコーディング手法および次元圧縮手法を組み合わせることで、覚醒状態と相関する2つのネットワークと麻酔状態と相関する2つのネットワークの抽出に成功した。 3.社会的相互作用と相関する脳内表象の抽出手法:2頭のニホンザルに社会的衝突を伴うエサとり課題を行わせた。2頭のサルの距離を近づけて互いの共有空間にエサを置くと、サルは相手ザルが社会的に高位のときはエサ取りを抑制し、下位のときはエサを取るという行動が観察される。デコーディング手法を用い、1頭のサルのECoGデータ内のどの電極・時間帯・周波数帯域に社会的抑制行動と相関する情報が含まれているのかを調べた結果、社会的抑制行動と相関する情報を複数脳領野にまたがる時空間パターンの変化として抽出することに成功した。 今後はこれら3つの要素手法を統合し、社会的相互作用と相関する2頭のサルの脳間ネットワークの抽出を行う。
|