cAMP response element binding protein(CREB)は転写因子として知られている蛋白質であり、記憶形成の際にリン酸化されることで転写因子としての活性が上昇する。このCREBの脳内での活性を計測することは脳機能解明のために重要であるが、今までは実験動物を殺して生化学的にCREBのリン酸化を計測するしかできなかった。本計画では、ホタルの発光タンパク質であるルシフェラーゼを用いて、CREBの活性化(リン酸化)を生きたマウスの脳を用いて計測できる実験系を構築した。23年度はマウスにかける麻酔の種類とタイミングを調節することによって、発光計測が可能になったことを報告したが、24年度は無麻酔の状態のマウスの脳を用いて、CREBの活性化を計測することに成功した。麻酔は神経系の活動に影響を与えるため、無麻酔でのCREB活性化計測が成功したことは、より生理的な条件での測定が可能になったことを意味する。この無麻酔CREB活性化計測システムを用いて、抗うつ剤の生体脳内CREB活性化に与える影響を解析した。フルオキセチンはセロトニン取り込み阻害を通じてうつを治療すると従来考えられてきた抗うつ剤であるが、近年フルオキセチンがCREBの活性化を通じて神経新生を誘導し、抗うつ作用を発揮するという報告がなされている。このフルオキセチンを急性投与することによって、脳からの発光が上昇することが確認された。また、このときウエスタンブロットによってもCREBのリン酸化が亢進していることも併せて確認できた。これらの結果は、この実験系が正しく働いていることを示すものであり、抗うつ剤がどのように抗うつ作用を発揮するか解明するうえで重要な知見となる。
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