研究課題/領域番号 |
23650234
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八木 健 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10241241)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 進化 / がん / 量的形質 / 疾患モデル / 突然変異 / エピスタシス / マウス |
研究概要 |
これまでに作製したC57BL/6系統由来の高頻度突然変異発生系統(DNAポリメラーゼdelta修復活性欠失マウス)を利用して、8系統に分けて兄妹交配により継代を重ねた。各々の系統ごとに独立した突然変異の発生と固定を繰り返し生じさせ、目に見える形態異常や行動の変化に注目してスクリーニングを進めるとともに、尻尾の長さ、体重、体長、手足の長さ、血液成分などの量的形質を解析し、高頻度突然変異発生系統ごとの個体での平均値、ばらつきについて解析した。さらに各個体の体重や1回の出産あたりの産仔数なども記録し、各世代のマウスのゲノムDNAをすべて冷凍保存することにより、後からでも突然変異の発生した履歴が解析できるようにサンプリングを行った。新たな表現形質をもつマウス系統については、B6とDBA2系統間の多型を利用した連鎖解析により原因遺伝子変異の特定を進め、「小鳥のようにさえずる」マウス系統については原因遺伝子領域の特定に成功した。また、本年度は計画には無かったが、高頻度突然変異発生系統において1匹のマウスについての全シーケンス解析を行った。その結果、1塩基多型(SNP)が86,211、挿入欠失(INDEL)が14,024の候補を同定した。これらの中には、8の遺伝子欠損、443のアミノ酸配列置換、16の終止コドン配列置換が、ホモ及びヘテロで認められていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的:これまでのマウス遺伝学での解析は、単一遺伝子の機能欠損や有害突然変異を対象とした解析であり、遺伝的多型により生じる量的形質を捉える系ではない。本研究では、私たちがこれまでに作製した内在的に遺伝子変異を高発するマウス系統を利用し、このマウス系統を継代することにより、生きたマウス個体に遺伝的多型を蓄積させ、エピスタシス(多重な遺伝的変異の相互作用)や量的形質をもたらす遺伝的多型の解析を解析する実験系、新たな量的デザインモデル作製系の確立を試みる。本研究期間において、遺伝的多型が蓄積したマウス個体を作製し量的形質を含む表現型の解析を行う。本研究は、これまで難しかった量的形質に注目し、新たな遺伝的多型をもつマウス系統を確立し、新たなヒト疾患モデルを確立する意義の高いものである。本年度、生きたマウス個体に遺伝的多型を蓄積させた系統より得られた「小鳥のようにさえずる」マウス系統の原因遺伝子領域の特定に成功した。また、体重、体長、尾長、血液生化学的解析などの量的形質についての解析を行い、各系統間のみならず同系統内の個体レベルでの量的形質のばらつきの増加を確認した。また、当初の年度計画には無かった1系統マウスの1個体について全シーケンス解析を実施し、1塩基多型(SNP)が86,211、挿入欠失(INDEL)が14,024を確認した。これらの中には、8の遺伝子欠損、443のアミノ酸配列置換、16の終止コドン配列置換が、ホモ及びヘテロで認められた。この結果、量的形質のばらつきをもたらしている突然変異のホモ及びヘテロでの組み合わせにより得られている可能性が強く示唆された。この結果は、エピスタシス(多重な遺伝的変異の相互作用)や量的形質をもたらす遺伝的多型が本高頻度突然変異発生系統において具体的に得られていることを示唆しており、当初の計画が予想以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、全シーケンス解析をしたマウス系統をC57BL/6Jと交配して雑種第1世代(F1)マウスを得て、それらを交配させることにより雑種第2世代(F2)マウスを得る。このF2マウスでは、全シーケンスで確認された突然変異がホモ及びヘテロとして異なった組み合わせに分配させることになる。この各マウス個体を1匹ずつ、理研のマウスクリニックの解析を行い、血液生化学、行動、体重、体長などの量的形質の解析を行う。この解析結果を、ばらつきを含めて解析し、特定可能な量的形質を絞る。更に、個々のマウスでの全シーケンスで解析した突然変異の分布を解析することにより、量的形質をもたらす多重遺伝子の特定を行う。これらの解析により、これまで困難であった量的形質をもたらすエピスタシスを具体的な遺伝子変異との関係で解析することが可能となると考えている。 また、全シーケンスされた大本のマウス雄と雌ペアーの全シーケンスの解析を行い。本研究のDNAポリメラーゼdelta修復活性欠失により新たに生まれた突然変異を特定する。この突然変異を特定した後、それぞれの突然変異が入った世代を特定するとともに、ホモ、ヘテロで維持されてきた突然変異を特定する。このことにより、ホモ化することにより生存を困難にする有害突然変異を特定するとともに、ホモで維持されてきた中立的突然変異を特定することが可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子解析試薬、薬品、マウスなど 物品費 600,000円共同研究打ち合わせなど 旅費 100,000円実験補助など 人件費 300,000円マウス飼育費など その他 300,000円
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