研究課題/領域番号 |
23650236
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 教授 (70295210)
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研究分担者 |
枝重 圭祐 高知大学, 生命環境医学部門, 教授 (30175228)
森田 哲夫 宮崎大学, 農学部, 教授 (90301382)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 実験動物 / バイオリソース / Apodemus speciosu / Apodemus sylvaticus / 生殖工学 / 高脂血症 |
研究概要 |
ユーラシア大陸に普遍的に分布する齧歯類であるApodemus属のうち、日本固有種であるアカネズミ(A. speciosus)と欧州から導入したヨーロッパモリネズミ(A. sylvaticus)を対象に、新規バイオリソース開発を目的とした研究を開始した。飼育下での繁殖が極めて困難とされるA. speciosus については人工繁殖技術の開発に着手し、すでにコロニーが確立しているA. sylvaticus では、LDL蓄積型(ヒト型)高脂血症の表現型解析を開始した。 【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】 人工環境下で2世代以上の繁殖記録がない本種は、分布域によって異なる繁殖性を示すことから、日長と気温の変化が複合的に繁殖に影響し、さらに人工飼育によるストレスが負の要因として作用すると考えた。そこで1)本州中部、伊豆諸島、九州南部の個体を同一環境で飼育する野外飼育試験を開始し、繁殖性への影響を試験した。2)ストレスの軽減のための飼育装置を開発し、繁殖性の改善を試みた。3)繁殖生理状態をホルモンレベルで経時的に追跡するため、非侵襲的で高感度なホルモン測定法の開発に着手した。 【A.sylvaticus のLDL蓄積型高脂血症病態解析】 ヒト型高脂血症の病態を再現する小型実験動物開発をめざし、A. sylvaticus の特性を詳細に評価するため、1)自然発症高脂血症個体にヒト用高コレステロール治療薬であるメバロチンを投与し、血液性状の変化からヒトの高脂血症との類似性を検証した。2)高脂血症個体に強制運動負荷をかける事で、血液性状に及ぼす影響を検討した。3)本種コロニーの自然交配による維持繁殖を補助するとともに、A. speciosus における人工繁殖の一助とするため、生殖工学的手法の開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【A. speciosus の人工繁殖の開発】 1)異なる地域の個体を用いた同一環境での野外飼育試験: 長野県、東京都三宅島、宮崎県の個体群を宮崎県の野外環境で長期飼育したところ、宮崎の個体のみが発情兆候を示した。それらは異性同居による繁殖誘導刺激に対して、雌雄間で非対称的の反応を示すことが明らかとなった(日本哺乳類学会2011年度大会で報告)。2)ストレス軽減用飼育装置の開発:A. speciosus は野生下では穴居性であるため、透明ケージ、床敷きを用いてヒトが接触することによるストレスが繁殖を障害する可能背がある。そこで巣穴環境に近い特殊ケージを設計して試験したところ、繁殖性が格段に向上したた。3)高感度な非侵襲的ホルモン測定法の開発:微量糞中のエストラジオール、プロジェステロンの測定系の確立を試み、夾雑物等の問題点を抽出した(第29回九州実験動物研究会(2011.11.12)で報告)。【A. sylvaticus のLDL蓄積型高脂血症病態解析】1)A. sylvaticus 高脂血症個体へのヒト用高コレステロール治療薬(メバロチン)投与試験:メバロチン投与による一過性の治療効果が示唆されたが、ヒトと比較して顕著ではないことが明らかとなった(日本実験動物科学・技術 九州 2012(2012.5.24-)で報告予定)。2)強制運動負荷がA. sylvaticus の高脂血症に及ぼす影響:二週間の強制運動は、本種の血液性状に影響しないことがわかった。3)A. sylvaticus の人工繁殖技術の開発:過排卵誘起条件を確定し、過排卵雌を用いた交配試験の結果、産仔が得られた(第29回九州実験動物研究会(2011.11.12)で報告)。さらに受精卵の体外培養系を確立し、凍結に関連する物理的パラメータの測定、精子凍結試験等を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】 異地域個体群の繁殖試験を複数年にわたり長期間継続することで、経時的な環境応答について検討し、季節繁殖性の制御要因を抽出する。特に発情誘導因子として異性刺激が機能しなかった雌について、日長、温度、外部エネルギー、ストレス等とあわせた複合的な影響について検討する。ストレス要因の排除には新開発の飼育システムを用いる。これは本種以外の繁殖困難な野生齧歯類に応用できるように改良する。また非侵襲的ホルモン測定について、特にエストラジオールが雌の性周期を反映する可能性が示唆されたため、試料精製法を検討して計測系を確立する。 【A. sylvaticus のLDL蓄積型高脂血症病態解析】 高脂血症に対してメバロチンが一過性の治療効果を示したため、投薬以外の要因(摂取及び消費エネルギー等)との複合的な影響を解析する。またヒトへの治療効果が高いスーパースタチン系薬剤を用いて、効果検出の解像度を高める。強制運動が血液性状へ及ぼす影響に関しては、自発活動量やエネルギー摂取量を含めた複合的解析を行い、詳細に検討する。これら病態解析と独立して生殖工学技術の開発を継続する。昨年の試験から、過排卵雌を用いた自然交配で受精卵の安定供給が可能となったため、これを用いて凍結保存の基礎データを集積しつつ、凍結卵を用いた産仔作出を目指す。また予備試験より凍結精子の運動性が維持される事を見出しており、これを用いた人工授精系を確立し、本種生殖細胞の凍結保存による系統維持法の確立を目指す。さらにA. speciosus等自然繁殖が困難な齧歯類へ展開する。 【Apodemus属のゲノム学的アプローチ】対象二種の肝臓cDNAのEST解析を行い、既知齧歯類とのゲノムの類似性、ヒトの肝臓での脂質代謝系との共通性についてゲノム解析を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に沿って本年度の研究経費(1,279,864円、繰越金379,864円を含む)のおおよその使用計画を記す。 【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】1)異地域個体群の長期繁殖試験を行うにあたり、個体採取旅費もしくは謝金を含め、およそ20万円程度を割り当てるとともに、分担者の森田教授に10万円を割り当て、飼育試験を担当していただく。2)ストレス軽減用飼育装置の開発は、基本コンセプトが確定しており、出費はほぼないと考える。3)ホルモン測定系の開発には、指標となる放射性物質および抗体等の試薬に15万円程度を割り当てる。 【A. sylvaticus のLDL蓄積型高脂血症病態解析】1)スタチン系薬剤投与試験には薬剤購入及び動物維持管理で5万円程度を、血中脂質プロファイリングには一部、解析を受託機関に依頼するために30万円程度を割り当てる。2)強制運動負荷試験に関しては、実験装置が既に備わっており、動物維持管理費5万円程度の割り当てを予定する。3)人工繁殖技術の開発には高知大学の枝重教授に10万円を割り当て、受精卵の水および耐凍剤透過性測定試験を担当していただく。加えて、精子凍結、人工授精、受精卵移植試験に関連した試薬、消耗機器等で20万円程度を割り当てる。 【Apodemus属のゲノム学的アプローチ】対象二種の肝臓cDNAのEST解析に必要な経費特に次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析に必要な経費は主に別途獲得した宮崎大学医学獣医学融合による統合動物実験研究プロジェクト経費(課題名「アカネズミ(Apodemus)属バイオリソースの設立」)に依存する。 これら研究成果の発表のための旅費、論文投稿費用等に経費の残り(およそ13万円程度)を割り当てる。
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