前年度は注入標本による皮下血管の走行観察、皮神経の染色、および皮幹筋の剖出を行ったが、新知見に加えていくつかの疑問点が出てきたため、今年度も形態学的観察を継続した。 血管系に関しては、創傷実験を行いやすい体幹背側皮下の分布範囲を観察するだけでなく、深部血管との繋がりを探索した。動脈系では、脊柱の両側に沿う縦走路の主要な供給源が、深部の深腸骨回旋動脈と胸背動脈の皮枝であることが明らかとなった。肋間動脈はこの縦走路に吻合するものの、脊髄神経後枝の伴行血管としての性格が強く、皮下への供給源としては弱いと考えられた。縦走路は皮幹筋表層と真皮の間を走り、これから内・外方に延びる横走細枝が皮膚への末梢枝であった。深腸骨回旋動静脈の走行については、ヒト、ラットおよびノウサギとの比較解剖学的検討を行い、スンクスにおける起始(流入)位置と体幹分布の特徴を2学会で発表した。背側の皮神経が皮幹筋を貫通する位置は縦走血管路の近辺であり、ここで内・外方へと分岐し、皮幹筋の表層を分節的に広がっていた。 スンクスの皮幹筋はよく発達するが、重層的でその解釈は難しく、従来は簡易な記載が多かった。今年度の観察で、スンクスでは腕背筋とその誘導層が体幹背側を広く覆うこと、顔面神経領域の皮筋に連続すること、背側浅層の皮幹筋が肩甲骨や上腕骨への付着を有すること、会陰部で背腹の皮幹筋線維が連続すること、などが明らかになった。このような皮幹筋の発達と、肩甲骨および寛骨周囲の豊富な脂肪体の存在により、スンクス皮膚の大きな可動性がもたらされると考えられた。皮下の血管・神経は皮幹筋表層で末梢の広がりをもち、皮下実験では皮幹筋の形態理解が結果を左右する因子になることが示唆された。 今年度内で十分な実験は実施できなかったが、前記のような形態学的特徴を踏まえれば、スンクスを皮膚創傷のモデル動物として活用する道が開けると考える。
|